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第一章 六節

 振り下ろされたアギトを紙一重で躱し、鎧に飛び乗る。鎧蟻が怒りの金切り声を上げ、上体を持ち上げるがもう遅い。


 テトの振り下ろした手斧は鎧の隙間に吸い込まれ、頸椎を断ち切った。


 どす黒い血飛沫が首元から噴き出す。銀髪をふわりと翻し、既に宙へと跳んでいたテトに返り血が付く事はない。


 放物線を描いて地面に跳んでいくテトを、次の刺客が狙う。仲間の屍を乗り越えて来た鎧蟻のアギトが、テトに襲い掛かった。


 テトは空中で身をよじり、手斧をアギトに打ち下ろした。金属同士がぶつかり合い、火花が散る。そのまま刃を滑らせ、体を回転させて衝撃を逃す。そして回転の勢いをそのままに、手斧を蟻の右目に叩きつけた。


 蟻の赤い眼球が弾け飛ぶ。おぞましい叫び声を上げて、巨体がのたうち回る。


 滅茶苦茶に振り下ろした前脚が襲い掛かるが、テトは目一杯の体重を乗せて、しかし正確に関節部を手斧で打ち抜いた。


 鋼鉄の前脚が、関節部から見事に切断され吹き飛ぶ。上体がのけぞった所を見逃さず、テトは刺客の首を刈り取った。


「シオ……心配かけてごめん」


 僅か三十秒で、鎧蟻の屍が二体積み上がった。じき三体目がそこに加わるだろう。


「帰ったらちゃんと説明するから……ご主人にも全部話す。きっと分かってくれるから……」


 一方、


「ハアアッ!」


 リカとロゼも鎧蟻と戦っていた。闘気オーラを纏ったリカの槍撃は凄まじい威力だが、鎧を貫いて絶命させるには至らない。ロゼも魔弓で援護し、蒼い小爆発が鎧蟻を包むが致命傷には繋がっていなかった。


 真正面からの力比べ。両名とも生まれつきオーラに優れているがゆえに、強靭凶悪な魔獣とも渡り合える。


 しかしそれゆえ、彼女たちは戦いの中で考え、工夫するという事をしない。アラベルに付き従い、正面から魔獣を討ち取る事が出来る彼女たちには、あるいは必要のない事かもしれないが。


 そうして格闘する事三分。ようやく一体目の鎧蟻が、全身から血を流しながら地に臥した。


「やったわ!」「楽勝ですぅ!」


 満足気な顔でリカとロゼが隣を見ると、五体目の鎧蟻から、テトが斧を引き抜いている所だった。


「……なんで、オーラも使えないクソ奴隷が」

「私たちより斃してるのよぉ」


 目を見開いたまま、唖然としているリカロゼ。


「さすがだな、テト」


 そのタイミングで、アラベルが戻った。その背後では火の手が立ち昇り、無数の屍が積み重なっている。鋼鉄の焼け落ちる臭いが、谷底を満たしていた。


 長身に纏っていた七色のオーラが薄れ、消える。


 アラベルはちらりと、テトとリカロゼの戦果を見比べた。テトの頭を撫で、彼女らには声もかけず踵を返す。


「兵隊蟻は粗方片付いた。巣は近い。行くぞ」


 歩き出すアラベルの背後で、リカが敵愾心剥き出しの視線をテトに向ける。テトも同様に睨み返すと、アラベルの後に続いた。




       ☆




「オラァッ!!!!」


 エスティアの拳が、鎧蟻の頭部を正面からぶち砕いた。


 パワーの前には小細工など無用。圧倒的な闘気オーラの前には、鎧蟻の防御力など紙切れ同然だった。


 拳の一突きで仲間を殺され、鎧蟻の群れに動揺が走る。


「死にたい奴から前に出な……ですわ」


 取ってつけたようなお嬢様言葉で、鎧蟻を挑発する。キイイィィ! という金切り声に含まれているのは、得体の知れない存在に対する恐怖か。


 その一声をきっかけに、鎧蟻の群れは尻を向けて逃げ出した。


「魔獣の癖に根性ないですわねぇ」


 呆れたように呟き、金髪を揺らして群れを追いかけ始める。


「ちょうどいいですわ。後をつけて光鉄結晶を少し拝借致しましょう」


 野盗のような発想を口にし、兵隊蟻を追い回す事しばらく。


 エスティアはやがて、巣の入り口へと辿り着いた。赤茶けた地面に大穴が開いており、地下へと続いている。


 奥からはぎしぎしという呻き声が響き、時折何か衝撃音のような物が聞こえていた。


 縦ロールをかきあげて耳を澄まし、眉根を寄せる。


「誰か戦っている……? いえ、それよりも……!」

 

 エスティアは背負っていた()()袋を体の前に持ってくると、中から一冊の本を取り出した。


「悪魔の書が……!?」


 本は三本のベルトで封じてあり、紫の光を放っている。


「この中に憑代候補がいるという事……? 確かめねばなりませんね……」


 緊張した面持ちで呟くと、エスティアは松明を取り出した。その先を火炎結晶で弾き、火を灯す。


 それから彼女は巣の中へと足を踏み入れた。巣は緩やかに地下へと下っており、足場はかなり悪い。


 高さは鎧蟻が余裕で通れる程度、幅は辛うじて彼らがすれ違えるくらいか。進むほど分かれ道が増え、その度にエスティアは闘気をまとった指先で壁に目印を刻んでいった。


 松明の火が届く範囲は広くない。一寸先の闇からは、鎧蟻の金切り声が幾重にも重なって聞こえてくる。時折、断末魔のようなおぞましい声と、衝撃音がエスティアの足元まで響いた。


 どれほど歩いたか。


「……!」


 きらり、と闇の奥で炎が何かに反射した。その瞬間──


「キシャアッ!!」


 正面、そして脇からも同時に鎧蟻が襲いかかった。


「ぐっ……おおおッ!!」


 エスティアの身体を蒼炎が包む。雄叫びを上げ、引き裂かんと迫る二つのアギトを、右手と左手でそれぞれ受け止めた。


「「ギイッ!?」」


 鎧蟻が驚きの声──かは定かではないが──を上げる。エスティアは右手のアギトを思い切り押し退けると、正面から迫るアギトを両手で持った。両腕を伸ばし、ちょうど鎧蟻と握手をするような形。


 そのまま彼女はどうしたかというと、鎧蟻を持ち上げた。


「ギシャアッ!?」


 鎧蟻が上げた悲鳴は、今度こそ驚きの声であった。人間が、それも若い女が自分の数十倍も大きな魔獣を持ち上げている。鋼鉄鎧に覆われた巨大蟻が、六脚を浮かべじたばたとしているのだ。横から襲ってきた鎧蟻も後退りしていた。


「フオアッ!!」


 そうして持ち上げた鎧蟻を、エスティアは脇にいる鎧蟻へと叩きつけた。下敷きになった金属鎧がひしゃげ、地面に亀裂が入る。


「あっ、やべっ」


 エスティアが飛び退いた途端、ひび割れた地面が崩落した。洞窟の底が抜け、岩盤ごと二頭の鎧蟻が下層へと落ちていく。


 いくら堅牢な防御力を持つ鎧蟻といえど、崩落に巻き込まれればひとたまりもない。外殻より先に、内臓が破裂して絶命しているだろう。


 エスティアは自ら作ってしまった大穴に恐る恐る近付くと、松明を掲げて覗き込んだ。当然、何も見えない。


「あらぁ……まさか地面が抜けるとは。気を付けねばなりませんね」


 パワープレイ女は軽々穴を飛び越えると、さらに奥へと進んでいった。

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