島内調査、険悪
「おっとぉぉおっ!」
魔獣の剛拳を間一髪で躱し、心の底からその言葉を発する。
パオロは、まだ見つからない。
「くっそ、あの野郎! どこへ行きやがった!」
さっきから、どれだけ走ってもパオロの姿が見当たらないのだ。まるで、この場所からはいなくなってしまったかのように。
その後も、リコは魔獣の攻撃を避けて避けて避けまくった。
それからしばらくしてようやく、パオロはその姿を現す。颯爽と、勇者のように。
――――空から。
「ナイスだリコ! グッドタイミング!」
居た。そう。樹木の太枝の上に。
言葉を発して直ぐ、剣を持って螺旋状に飛び立ったパオロの刃は、真っ直ぐに魔獣の脳天を目指す。
舞うように、回転の動きを取り入れるパオロ独特の剣技。
後に“マロスティ流”と呼ばれる剣技だ。
瞬きの刹那、刃は脳天へ直撃パオロは食い込んでいく得物をゆっくりと埋めていき、地面へ叩きつけた。
その時の衝撃で、パオロは後ろへ転げてしまうがすぐ立ち上がり、「やったか?」と言う。
ゆっくりと近寄り、魔獣の顔を覗き込む。
しばしの沈黙。そして、閉じていた魔獣の目がカッと開き、立ち上がろうとする。
「おらァッ!」
そこへ、リコの脳天への追手の一撃がぶつけられた。
こうしてやっと、魔獣の動きは完全に停止した。
「ふぅ……やっと死んだか……」
リコは一段落がつき、地面にへたり込む。
天を仰いで、パオロに文句をぶつけた。
「全くお前はどこへ行っていたんだ? 俺はあと少しで死ぬところだったんだぞ?」
「はは、ごめんて」
リコは続けて言う。
「俺は、お前みたいに特別じゃないんだから…………あっ……」
その言葉を発した途端、パオロは言葉が詰まったかのように喋らなくなった。
リコは、言葉を発してから「不味い」と思ったのか、少々、慌てる。
パオロは一言。
「僕は、特別なんかじゃない……」
と言って、この日は探索をもうやめることになった。
――夜。調査団本部。
「それで? 神殿の方の調査は終わったのか?」
団長と、その他各方面調査長たちが集って行われる会議。
今夜の議題は、ウォラストン島南端の神殿に付いてである。
「はい。つい先、日が落ちる頃に調査が終わりました」
「それで? 何かしら見つかったのか?」
その言葉を受けると、神殿調査長である男性は事あり顔になってみせる。
「それが……」
ボソボソと、ぼやくように口を開き説明を始めた。まるで、言い訳でもしているかのようであった。
その滑稽な姿に愛想をつかした団長は、すこし口調を強くして言う。
「もっとハキハキと話せ。これはお願いではなく命令だ」
「は、はっ!」
それから、団長の言い示した通りに男性は説明をつらつらと述べ始めた。
「なに……? 人骨は愚か、武器も見られなかった?」
調査報告は予想以上に酷く、団長の堪忍袋はそろそろ限界が来そうであった。
調査報告にて提出された情報は、以下のものである。
・内部で動物の類の骨は見つかったが、人間の骨は見つかっていない
・内部の部屋のどこにも、兵器類は愚か、武器などの残骸は発見されなかった
・しかし、人が生活していたと見られる跡は複数箇所確認された
というものである。
「なぜ、生活した跡が見つかっているというのに、人骨はないのだ!?」
「申し訳ありません……!!」
男性は、頭を深々と下げ、己の無力さを詫びる。
「団長。発言をしてもよろしいでしょうか?」
「好きにしろ……」
団長は頭を抱え、髪をクシャクシャにいじる。
「私どもも、周辺調査を行いました。しかしながら、何一つとして文明の残骸は見つかっておりません。おそらく、この島には文明を解き明かすレベルの情報はないと思われます」
「だからどうしろと言うのだ?」
頭を抱える手の隙間から、普段は温厚であるはずの鋭い眼光がもう一人の長を臆させる。
しかし、それに負けじと長は意見を申し立てた。
「意見具申いたします。我々は一刻も早く、この島から離れ、別の島へ赴くべきです」
これから毎週月曜、三話ずつ投稿予定です
ここまで読んでくださった方、本当にありがとう。飽きないで、次もよろしくお願いします。