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南端の島ウォラストン

港を出てから約五日程掛けて、一行は最南端の島「ウォラストン島」へ上陸した。


――ウォラストン島

諸島で最も南に位置する島。初めて発見された島であり、初めて貴族一行が上陸した島。

南端に、神殿が一基。島内に一基の計二基確認されており、南端の方はかなり無骨な作りになっていることから、現段階では砦の役割を担っていたのではないかと推測されている。


一行が上陸したのは、島の南端。発見された砦のような神殿付近だ。


まずは、この砦の調査から行われた。


とは言ったものの、流石に一つの神殿を二百人総出で調べるわけにもいかない。

砦の調査に駆り出されたのは、全体の四分の一の五十人程度。

残りは周辺の地図作成と、地質調査、食料確保のため、上陸してすぐに見られた大森林内部の探索を始めた。


だが、発見されてからの六十年の間にも規模は小さいが調査は行われている。

そのおかげで、一行はこの島自体に長くは居座らないでいる予定だ。


パオロとリコは、長年の知識を活かせとの命令で、地図作成のグループに組み込まれることとなる。



――夜。


「ふむ……この森、異様に起伏が激しいな」


調査団団長と、地図作成、地質調査に当てられた者共が集まり、嚮導船である第一帆船の会議室にて調査報告会を開いていた。

とはいっても、基本はリーダー格の人間たちが集まってやる会議だ。

だがこの会議に、パオロたちは出席している。団長特別枠で入らせてもらった。


この調査の団長は、パオロが昔の冒険にて世話になった人であり、公国貴族の男爵に当たる人物。

領主である侯爵の命により、この調査任務団長として任命された。

非常に温厚な性格で、人としてよく出来すぎてしまった人。そのため、お願いを断れず、いつも色々なことに巻き込まれる。


普段は、公国領に属しているとある地下迷宮の警備総督を務めている。

結構立派な人だ。


「この構造、まるで何かからの侵入を防ぐような位置関係だな……」


団長は、地図を見ながらそう言った。


地図には、南端の神殿を中心とする半円の丘が成り立っており、それの内側を削ったような地形になっている。

簡単に言えば、壁のような形状をしている。


「団長、発言をしても?」


すると、一人の女性が、発言の許可を申請する。

団長はそれを快く了承し、女性は一つ間をおいて話を始めた。


「我々は、地質調査へ赴いておりました。そこで、一つ分かりましたことがありますのでお伝えします。まず、ここ周辺の土壌ですが、この辺りは森林地帯ということもあり水をよく吸う性質が見られました。まさに、森の土というような保肥的な土壌でした。森の規模からもおそらく、数百年前から存在していたものと推測されます」


女性はハキハキと、どこを支えることなく丁寧に話を続ける。


「しかしながら、先程話に出ました丘陵地にて、一つ。疑問点が見られました。実はその丘陵地だけ、樹木がほとんど見られないのです」


女性の発言に、一同は卓上に広げられる大きめの羊皮紙に目を通した。


「ん? そうか? どれどれ……」


団長も確認のため、調べられた周辺の地形図を覗いた。言われてみればたしかに、丘陵地のところだけ、ものの見事に樹木の記載が一切ない。


「そして気になり調べたところ、その土壌だけ粘土質の土壌でした。粘土質の土壌は、普段はかなり硬質性があり、水に触れると地面が歪むような特徴があります。このことから考えられるのが――」

「防衛に使われたってことか。なるほど」


しゃしゃり出たのは団長でなく、パオロであった。女性の発言を遮ったその声に一同は注目し、人によっては軽蔑の目を向けるものもいた。


「普段は硬く、防衛の要の壁となり雨天時はぐちゃぐちゃになることで相手の進行を遅らせられる。よく考えられているね」

「おい、パオロ……!」


一同が白い目を向ける。その場の空気に耐えられなくなったリコが、パオロをなだめるように抑えようとする。

しかし、そんなことでパオロが止まるわけもなく、逆に勢いをさらに増した。


「つまり、ここから南方の方に何かしら、このナッタ文明にとって驚異的な存在があったことになるな……だとしたら、それはいったい……」

「んっん……」


少々話題が落ち着いた頃、団長は咳払いをしてみせる。その後は何も言葉を発しなかった。

無言の圧力。それに、パオロは気付き黙り込む。


「もう夜も遅い。今日はこのあたりで締めとしよう。パオロの言い分についてはこれから調べてゆけば、後々分かるだろうしな。それと」


「私語は基本慎むように」。釘を差すように団長はパオロに言いつけた。

パオロもそのことを反省し、リコは肩を竦める。


「それでは、解散」


団長の合図で一同は会議室から出て行った。

パオロとリコの二人は会議室に残り、地図の書き写しを行って帰った。


何にせよ、明日から、本格的な島の調査が始まる。

ここホシニ・ナッタ・ピィ諸島は広い。

一つの島でさえ約八十キルメリーはあるという。これは軽く、町が三つくらいの大きさだ。


そのために、ここ五十年の間にも何度が行われた軽い調査で分かったことも少なく、きちんとした情報があるものは殆どない。

島の大まかな情報。これだけを頼りに、この調査団は動くしかない。


とにかく。明日は早い。

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