第3話
「何でしょうか?」
呼び止めた白に聞かれる
「いや、」
飯に誘っても迷惑だよな……
「何でもない」
「そうですか、では」
軽く頭を下げて白は部室を出る
俺はその後、行きつけのラーメン屋に寄ってから帰った
◆◆
俺はゲームセンターに来ていた。
近所にあるこの店では毎月の第三土曜日、一部の台の設定が甘くなるキャンペーンを開催しているからだ
「あれは……」
店内を歩いていると見覚えのある背中が見えたため声をかける
「よお」
「先輩、こんにちは」
休日ということもあり、私服だった。
寒色系の地味な服だがおとなしめの白によく似合っていた
「お前も一人か?」
「いえ」
白は白髪に赤い目と奇抜な容姿をしているが、顔は整っている
つまり――
「男か?」
「……はい」
予想どうり男がいたみたいだが、彼氏なら白のいじめを知らなかったわけじゃないはずだ
なら、知っていて放置していたことになる
いずれにしても、ろくな奴ではなさそうだな――などと考えていると
「おねいちゃーん!一人でトイレにいってこれたよ!」
四歳ぐらいの男児が白に駆け寄る
俺の予想は外れたらしい
「弟がいたのか」
「はい、弟の彰です」
弟と一緒に出かけていた訳か
彰は白とは違い、髪の色も目の色も普通だった
「彰、あいさつして」
白が挨拶を催促する
「あきらです。おにいちゃん、だれ?」
「白と同じ学校に通っている半田だ」
「そうなんだー」
返事をする彰の視線は既に近くにある美少女フィギュアが景品のクレームゲームに移っていた
「あれ、欲しい!」
彰は目を輝かせながら台のガラスに張り付いた
驚いた、既にこの年で興味があるとは……
「キッズスペースに戻るよ」
白が強引に併設されているキッズスペースに連れて戻そうと引き離す
ガラスには彰の顔と手の跡がくっきりと付いていた
無理やり離された彰は下を向いて動かない
「……一回で取れなかった諦めてね」
しばらくして、折れた白が小銭を取り出しながら台に向かう
「うん!」
彰の目に輝きが戻る
幸いにも今から白がプレイする台はキャンペーンで設定が甘くなっている。一度で取ることも不可能ではない
「がんばってー!」
彰は必死に応援している
うまくリングに引っ掛かりクレーンが箱持ち上げる――が
「あっ、、」
景品は落ちなかった
「行こう」
白が彰の手を引っ張る
それにしても、この年で美少女フィギュアか
「何でそんなに欲しいんだ?」
気になった俺は彰に質問する
「……にてるから」
「誰に?」
「おねいちゃんに」
確かに髪色は違うが、赤い目や顔つきは白に似ていた
しかし、美少女フィギュアなだけあってまあまあエロい
「ひとりでいるの……さみしいから」
彰は俯いて言う
「家で一人なのか?」
「うん、」
鍵っ子だったのか
「親とは別居していて、二人で住んでいるんです」
白はそれが普通のことのように、言った
親と別居で弟と二人暮らし……か
「……そうか」
つまり、平日にほとんど一人で居る寂しさを紛らわす為に、姉によく似た人形を欲しているということか
それにしても――
「仲がいいんだな」
「昔から弟の面倒は私が見ていましたから」
昔から……そうだったのか
「……こい」
俺は財布から小銭を取り出してさっきの台に向かいプレイを始める
「こういう台はリングの後ろに引っ掛かけて取るんだ」
クレーンの先がうまくリングに刺さり景品が落ちる
「やるよ」
あきらに景品を渡す
「いいの!?」
彰の目は再び輝きを取り戻した
「受け取れません、彰、先輩に返して」
「えー」
彰は抱きかかえて離さない
「譲るとは言ったが……タダでとは言っていない」
俺は彰と同じ目線までしゃがみ込む
「俺と一つ約束しろ――二人で暮らしているんだろ?白のこと、大切にしろ――約束出来るか?」
「できる!」
彰は宣言した
「本当にいただいてもいいんですか?」
白が改めて言う
「ああ、」
「ありがとうございます」
白が深く頭を下げて言う
「ありがとう!おにいちゃん!」
彰も続くように元気よく言った
「またな」
その日は、佐藤兄弟と別れた後ゲーセンを回って帰る――はずだった
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