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89.ただいま金剛等級

「おぉ……久々に見たなこの輝き。」


 あれから数日。ベリオット冒険者学校の一角で、ガジュ達は自分の胸を眺めていた。架空の敵をでっち上げ、冒険者協会にだけ魔族討伐の話をすることで功績を独占する。ガジュが考案した作戦は完璧に成功し、無事『クリミナル』の一同の胸には金剛等級へ昇格、その胸には金色の勲章が輝いていた。


「ねぇねぇガジュ!金剛等級冒険者って色々恩恵があるんだよね!何が貰えるの!?」

「俺が『カイオス』にいた頃は、各地にある冒険者協会の個室と宿泊施設の利用許可。後、固定給が出るのも金剛からだな。黒曜等級は殿堂入りみたいなもんだから、金剛が実質的な最高階級みたいなもんだ。この勲章つけて街歩けば大抵の冒険者から崇められるぞ。」

「うっひょ〜!最高じゃん!ねねっ、今から見せびらかしに行こう!僕らの同級生なんてみんな銀等級程度なんだしさ!羨望の目を浴びて気持ちよくなろ!」


 ユンがわかりやすくテンションを上げ、短いスカートをひらひらさせながら踊り回る。遂に辿り着いた金剛等級。ガジュとしても嬉しい限りだが、やはり頭にチラつくのは奴の顔だ。それはパーティの中でも一際冷静なシャルルにしても同じようで、横で踊る馬鹿を尻目に窓の外を見つめていた。


「どうするんですか?ここから。魔族が相手となると、恐らくガジュ達が和解したことはバレています。いつこちらを狙って次なる行動を起こすかも分かりません。」

「それにガジュはテンパランスに続きチャリオットも倒したわけだしね。ジュノを見た感じ、魔族はある程度魔族間での社会性を構築している生命体。仲間がやられたら報復に来る可能性は十分にあると思うよ。」

「お前、さっきまで馬鹿みたいな話してた癖に急に真面目になるなよな……。」


 シャルルが言うことも、ユンが言うことも、実に正論極まりない。ハクアが和解を提案したのは、ガジュが魔族に勝てる実力だと確信したからだ。今後ガジュは常に魔族の襲撃を頭の片隅に入れた状態で行動しなければならない。その事実がガジュに重くのしかかり、思考を鈍らせる。


「まず確定してる話として、試練の迷宮へ行くにはそれなりの期間を要する。その期間、一体何をするかってことから考えよう。」


 試練の迷宮へ魔族の情報を得に行く。ハクアからそう提案され、ガジュは明日にでも試練の迷宮に行くつもりだったが、生憎その勢いはハクア自身の手によって押し止められてしまった。黒曜等級の冒険者というのは実に多忙であり、ガジュ達のようにフラフラと生活できる等級ではない。冒険者協会から絶え間なく仕事の依頼が入り、それをただひたすらにこなしていくこと、それが黒曜等級の仕事であり、並の冒険者たるガジュ達が彼らに早々会えない理由の一つである。


 その前提は今回も同じだったようで、ハクア達は創立祭での特別講師職の後にもいくつか仕事を控えているとのことだった。流石に優先順位の低い依頼は拒否するが、それでも試練の迷宮にもう一度行けるのは大体一ヶ月後。そう宣言され、ガジュ達はそれまでの間完全な空白の時間を過ごすこととなった。


「シャルはこのままこの学校で勉強することを提案します。この学校に来てから一ヶ月、魔物の知識も戦闘力もぐんと増えましたし、ここからもう一ヶ月勉強できるとなればかなり有意義な時間の使い方を出来るはずです。」

「ユンちゃんは適当に依頼でもこなすのを提案するなぁ。前から言ってるけど、僕は冒険がしたいんだよ。もうベリオットにも飽きて来たし、どっか別の街にでも行って遊ぼうよ。せっかく等級上がったんだしさ。」

「さっきした話をもう忘れたんですか?シャル達は間違いなく魔族に狙われているんです。ベリオットに篭っておく方が得策ですよ。」

「いーや違うね。結局全ての元凶が誰かは分からないんだし、試練の迷宮に行く前に各所を巡って情報を集めるべきだよ。もしかしたらそれで全てが分かるかもしれないじゃん!」

「情報を集める間に殺されたらどうするんですかと言ってるんですよ!チャリオットを倒せたのも多くの人の協力があったから!シャル達だけしかいない時に襲われたらどうするんですか!」


 肘をついて考え込むガジュの前で、小さい体を振り回して言い合いする二人。この二人の喧嘩はいつものことだが、普段より白熱しているのは議題によるものだろう。争点となるのは「魔族に襲われた時勝てるのか」。これが争点である以上、戦う力を持たないシャルルが消極的に、持つユンが積極的になるのは当然だ。


 そして戦う力が不安定なガジュからすれば……実に微妙な話だ。


「光の差さない地下世界とかなら行っても良いけどな……。あまりにも状況による点と不明瞭な点が多すぎる。」

「そんなぁ……!ガジュまでお勉強派なの?いいじゃん、いいじゃん!危なくなったら僕がちょっと本気出すからさぁ!」

「この際聞くがお前は一体何者なんだよ。そろそろ煙に巻くのも限界だろ。」

「えー、いやー何というかその。まぁ僕のことはいいんだよ。そうキュキュちゃん!キュキュちゃんはどうなのさ!ずっと黙ってるけどさぁ!冒険したいの!?勉強したいの!?」


 この女はどうしても自分の話をしたくないのだろう。ユンはあからさまなまでに話を変え、後ろでジッとしていたキュキュの肩を掴む。今日はルウシェが近くにいないこともあってか珍しくいつものローブ姿。ユンが話を振る相手としては最適だろう。キュキュはいつだって、ユンに従順だ。


「わ、私は……そ、その、ユ、ユンさんと同じで良いです。行きたいところも故郷ぐらいしかないですし……。」

「故郷!いいじゃんいいじゃん!そういえばそんな話があったよ!行こう、今すぐ行こう!キュキュちゃんの故郷!」

「え、ほ、本当に行くんですか……?そんな、どこにあるかも分かりませんし。」


 もうベリオットを離れられるならどこでもいいのだろう。ユンが一気にテンションを上げ、それとは対照的にキュキュが下を向く。キュキュ自身ほとんど記憶がない上、そもそもキュキュがアルカトラに収容された際に摘発された場所。そんな所へ急に行こうなど荒唐無稽にも程があるが、ユンはそもそもがそういう人間だ。


 この馬鹿の言うことは一旦無視し、今後の方針を真剣に考えるか。そうガジュが思ったところで、勢いよく教室の扉が開く。


「ばばーーーん!!!久しぶりだな皆のもの!!!吾輩がやって来たぞ!悪の覇王!クルト様がなぁ!!!」

「うるせぇ。」


 やって来た、というより現れたというようなテンションで更なる馬鹿が現れ、ガジュは消しゴムを素早く投げつけていた。

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