77.山を登ろう
「うっひょ〜お祭りだお祭りだぁ!!!騒げ、踊れ、歌え〜!」
舞台は校舎裏の山に移り。凄まじい速度で移動する一団の中でユンは浮かれていた。模擬戦であり祭りでもあるこのイベントのルールは実にシンプルだ。この山の両端に各コースの本陣が置かれ、そこから思い思いに進軍。普段であれば両コースが学校を出入りする夕方の時間を皮切りに三時間の制限時間で己の力を試す。現在は開始から丁度十分ほど。いつ戦闘が起きてもおかしくない緊張の中、指揮官が場を仕切っていく。
「特別講師の任は譲ったが、昼コースの指示は私が取る。生徒達は私に続いて山を登り、ガジュ氏はこの辺りで散開して特別講師達を探しに行ってくれ。」
「一緒に行かなくていいのか。俺達は手本なんだろ。」
「例年ならそうするがな、君は手本になる気も力を抑える気もないだろう。どうせ君達の戦いの様子は例の投射機で後から確認できる。生徒の邪魔にならない所で暴れてもらった方が良いはずだ。」
「お気遣いどうも。」
一団の中からガジュ達『クリミナル』の一同が飛び出し、適当な木に登っていく。ガジュ以外然程やる気はないが、ここまで来たらやるしかない。
「さっきから随分と調子が良さそうだけど、ガジュは本当にハクアに勝つつもりなの?ご覧の通り、夕日がめちゃくちゃ眩しいけど。」
「一ヶ月ヘサに幾度となくしばかれたからな。今の俺はただのパワー馬鹿じゃねぇ。例え爛々と輝く炎の中だろうと、ハクアを叩き潰して見せるさ。」
「ふぅん。まぁ精々頑張りなよ。」
「お前らは大丈夫なのか?キュキュの正体はケルベロスの亜人、って話からちゃんと成長したんだろうな。」
ガジュはハクアしか見ていないが、『カイオス』はハクアだけのチームではない。レザの治癒力は人並み
外れているし、ラナーナの魔法の威力も桁違い。加えて新顔のジュナは全てが予測不可能だ。ユン達三人を信頼していないわけではないが、ガジュも心配する気持ちぐらいは持ち合わせている。
「大丈夫大丈夫!僕は勿論、シャルちゃん達も強くなったからね!」
「シャルは大きく変わった部分はありません。ただちょっと力が強くなってスタミナが増えただけです。一番変わったのはキュキュですよ。」
「わ、私は別に……。淫猥で愚鈍な犬畜生が三つ頭の化け物になっただけですし、私が吠えるしか脳のない愚か者なことには変わりませんし。何なら頭が三つもあってより一層うるさいのかもしれませんね。すみませんすみません。」
褒められたかと思えば自省し随分と忙しい事だが、樹上だから土下座が始まらないのだけは幸いというべきだろうか。ガジュがそんなことをぼんやりと思っていると、視界に見慣れた白髪がちらりと動く。
「いたぞ。例の馬鹿共だ。俺らなら数分で辿り着く。」
「はぁ……。めんどくさいなぁ。よいしょっと。」
目標を発見し木から降りるガジュ達。今にも走り出そうかとした時、ガジュの体は強く引っ張られ、短足の男に耳打ちを受ける。
「いいかガジュ氏。私が言った魔族の話を忘れるな。今もなおこの街には魔族が三人、いや一人がユン氏だとすると二人潜伏している。常に警戒は怠るな。」
「分かってるよ。正体も不明、目的も不明、唐突に現れて契約を迫ってくるんだろ?任せとけ、誰が出てきてもぶっ倒してやる。」
「君の場合は敗北することよりも誘惑に負けることの方が不安だ。いいか、例え何を言われようと奴らと契約するな。弱さも愚かさも、知識と経験で手に入れられる。その事を忘れるんじゃないぞ。」
「あぁ。スキルや体格は重要じゃない、大事なのは知識と経験。この一ヶ月で耳にタコができるほど聞かされた。じゃあな。」
ヘサの忠告を頭に入れ、ガジュはハクアに向かって走り出す。魔族としか思えない強力な反応は三つ。二つは勿論のことながら、ガジュは近頃ユンの事も警戒している。仲間である以上信頼はしているが、シャルルのように知らぬ間に体に細工をされている可能性や、キュキュのように知らぬ間に何かを飼っている可能性もある。ハクアを倒すことが最重要ではあるが、警戒するに越したことはないはずだ。
「あ、あの多分相手も散開しています……。まっすぐ行けばハクアさん、左がジュナさんで右がラナーナさん。奥にレザさんです。」
「流石の嗅覚だな。よし、じゃあ俺らも散開するぞ。とりあえずまぁ、健闘を祈る。」
「ガジュもくれぐれも正義に反する行いをしないようにしてくださいね。昨日のうちにこの山中に印を書いてありますから、何かやらかせばシャルがすぐに飛んでいきます。」
シャルルの幼い瞳がガジュをギロリと睨みつけてくるが、敢えてそれには返事をせず、ガジュは速度を上げていく。流石に人殺しをするつもりはないが、正義に反する行いと言われると何とも言えない。久々の復讐に、ガジュの心は燃えていた。




