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75.報告とマッチアップ

「はぁ……!あぁクソ!お前マジでどうなってるんだよ!何でこんなに暴れてんのに一撃も加えられないんだ!」

「暴れているからだ。多少動きに改善は見られているが、攻撃を外すために苛立って所作が雑になる。そこを改善しない限り私には届かないぞ。」


 あれから数時間。こうして会話しているヘサの顔すら全く見えない程の暗闇で、ガジュは膝をついていた。凍龍を打ち倒した時の全力パンチも、速さを意識した連携攻撃も、ヘサから学んだカウンター攻撃も。何一つヘサには通じず、ガジュは圧倒的無力感に打ちひしがれる。


「今日はここで訓練を終わりにしよう。これ以上体を動かしても明日に響くだけだ。」

「悔しいがそうするしかねぇな……。【闇の王(ナイトメア)】の効果を持ってしても体力の限界だ。」


 部屋の電気が灯り、ガジュの体から一気に力が抜けていく。スキル発動中は忍耐力が上がっているから然程気にならなかったが、いざ常人の肉体に戻ると疲労感が襲いかかってくる。あくまでもヘサを攻撃し続けただけ。こちらが受けた攻撃といえば、「脇が甘い」と言われながら木剣で軽く叩かれた程度で、痛みと表現するのもおこがましいぐらいのものだろう。


 だがここで眠ってもいられない。ハクアを打ち倒すためには行動を続けなければ。ガジュが復讐心を糧に足を動かそうとすると、訓練室唯一の扉が開き、いつもの三人組が現れる。


「やほやほ〜!お、無様な姿だねぇガジュ!」

「お前の方がよっぽど無様だろ。今度は一体何をしでかしたんだ。」


 項垂れるキュキュと、見るからに憤慨しているシャルル。そしてシャルルに引きずられている簀巻きにされたユン。寝転がったガジュと同じ目線の高さでユンがこちらを嘲笑い、その横でヘサが唾を飲む。この男の中では未だユンは危険人物のままなのであろう。だが何だろうとユンは仲間。ガジュは気にせず言葉を交わしていく。


「なんかまぁ色々ありましたが、ユンがあまりにもキュキュに暴力を振るうので縛り上げました。検証というには度が過ぎています。」

「そんなこと言わないでよシャルちゃ〜ん。だってルウシェに任せてても永遠にキュキュちゃんの正体分かんないしさぁ。一度色々確かめてみたかったんだよねぇ。」

「キュキュの正体?何だ、多重人格のコントロールを模索してたんじゃないのか?」

「勿論それも達成したよ。第二人格は意外とこっちの言うこと聞くし、第三人格は殴れば黙らせられる。そして何と!キュキュちゃんの正体はケルベロスだよ!」


 ケルベロス。ガジュも薄らぼんやりと聞いたことのある魔物の名だ。三つの頭を持ち、それぞれの頭を駆使して相手を噛み殺す。確かここ数十年目撃例のない激レア魔物だったはずだが、それがキュキュ?ガジュの頭はどんどんと混濁していく。


「前から怪しいとは思ってたんだよね。ケルベロスとの亜人だっていうなら、異能体が三つあるのも頷けるし。お伽噺レベルの話だけどあの魔物は甘い物、特に蜂蜜を練り込んだパンに目がないって話もあったはずだしね。」

「まぁ確かにそれなら説明はつくが、キュキュはどう思ってるんだ。お前の親だか先祖だか知らないが、身内の問題だろ。」

「わ、分かりません……。わ、私は親族に会ったことも有りませんし、な、何とも言えないとしか。」


 キュキュは根っからのアルカトラ育ち。いざ犬の獣人ではなくケルベロスの亜人だと言われても困惑するだけだろう。それにそこが明らかになったからと言って特に変わることはない。やることは結局一つだ。


「まぁキュキュのことはルウシェに人道的手段で調査させるとして、取り敢えず作戦会議するぞ。生徒を動かす計略を考える必要はないにしても、俺達は『カイオス』と喧嘩するわけだからな。誰と誰がやるかぐらいは決めておかないと。」

「うわぁ。ガジュって本当に復讐のことしか考えてないんだね。どうせガジュはハクアとしか戦わないんだし、もうちょっとケルベロスの衝撃に浸ろうよ。」

「断る。それに考えてもみろ、ハクア一人叩きのめした所で気持ち良くないだろ。あいつの信頼する仲間ごと叩きのめしてこその復讐だ。お前らもそれを心に刻んどけ。」


 ガジュはゆっくりと起き上がり、三人の仲間達を睨みつける。


「俺がハクアを倒すことは確定として、あのジュノとかいう新顔はユンに任せるしかないだろうな。あいつがどれぐらい強いのか分からんが、お前より強いことは早々ないはずだ。」

「僕を過剰評価しすぎじゃない?ユンちゃんはか弱い女の子だからね?」

「か弱い女の子はキュキュをここまでボコボコにしねぇよ。お前、ちゃんと治癒魔法かけてやれよ?」

「はいはい。わかってますよ〜っと。まぁ回復魔法は苦手だから手動で包帯巻くぐらいしか出来ないんだけどさ。」


 ようやく簀巻き状態から解放されたユンがキュキュに近づき、どこからか持ってきた包帯を彼女の傷ついた体に巻き付けていく。


「それで、二人は何か希望あるか?残ってるのは回復しか能のないインテリ治癒士と、文句しか言わない偏屈魔道士だ。」

「それならシャルがレザの相手をするべきでしょうね。シャルはガジュ達のように戦う力を持っていません。」

「じゃあキュキュがラナーナだな。安心しろ、今のお前はともかく、第二人格と第三人格……えーっと二首目と三首目は間違いなくあの女より強い。」

「は、はい……。が、がんばります……。」


 ただでさえメンタルが弱いというのに、自分の存在まで揺らいだことでキュキュ自身が一番困惑しているのだろう。ガジュは敢えて話を振らず、素早く対戦相手を決めていく。


 決戦は間近。


 後は戦うだけだ。

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