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5.スッカスカでスッケスケ

「いくらなんでも魔法の名前ダサ過ぎないか?ただの透過魔法だよな。俺の元仲間は『光の精霊よその栄光と慈悲に〜』みたいな長ったらしい奴唱えてたぞ。」

「それはその人がカッコつけてるだけだよ。いい?魔法っていうのは精霊と交信して使()()()()貰うもの。精霊さんに『この魔法使うよ!』って伝わるなら呪文なんて何でもいいの!」


 スケスケ、とかいうダサい呪文の通り、透明になったガジュとユン。二人はぐちぐちと言い合いをしながらも、その透明な体で監獄の中を歩いていく。


 ガジュもこの魔法についてはよく知っている。一定時間の間、遠目から見ると見えないぐらいの精度で体が透明化する隠密用の透過魔法。一定時間の長さは使用者の魔力量に左右されるが、何にせよ便利な魔法である。使用中は他のスキルや魔法が使えなくなるという制約こそあるものの、こうやってコソコソと移動するにはもってこいだ。


「お前ら!総力を結集してガジュ・アザットを捕縛しろ!奴はまだこのフロアにいるはずだ!」


 目の前を看守達が通過し、ドタバタと走り抜けていく。やはりこの看守の量はガジュ脱獄によるもの、ユンが逃げたことに関してはまだ問題になってすらいないようだ。


「これ、途中で解けたりしないだろうな。思いっきり看守の視界に入ってるが。」

「大丈夫大丈夫、この階を乗り切るぐらいには効果時間あるはずだから堂々と進めばいいよ。ただあんまりお喋りしてると音でバレるからね。」

「はいはい。ってあれもしかして階段じゃないか。」


 看守達を躱しながらガジュ達が前へと進んでいくと大きな階段が視界に入る。流石は脱獄不可能の監獄と呼ばれるだけあって、階段の装飾も並の建物とは段違い。絶対に看守以外通さないという固い意志を感じさせる電気柵とあからさまな爆破トラップによって扉は保護されていた。扉の横に謎のパネルが設置されているから、おそらくこれに看守が触れると一時的に解除される仕組みなのであろう。


「随分厳重な扉だね。どうする?多分何も考えずに通ったら爆発霧散しそうだけど。」

「あれぐらいの罠なら大体解除できる。ちょっと時間を貰うから、周りを警戒しておいてくれ。」

「あいあいさー!」


 妙に古臭い掛け声と共にユンが背後を振り返り、ガジュは扉の仕掛けに向きあう。長い間パーティ内で荷運びの任を務めていたガジュだが、多少なりとも役に立つ為に鍵開けや罠解除などの技術も磨いていた事がある。結局鍵開け程度ではパーティに貢献していると判断される事もなかったが、こういう場面では便利な技能だ。


「ところでこの階層にいる他の囚人達は助けなくてよかったのか?長いことここにいるんだろ、友情とかそういうのは芽生えてないのか。」

「あれ気づかなかった?この階層にいる私だけだよ。考えてみなよ、こんなに広い階層が百層もあるんだよ?そんな広い監獄がパンパンになるほど犯罪者がいるわけないじゃん。」

「確かに百層からここまで上がってくる間にも他の囚人は見かけなかったな。」

「そうそう。何てったって元がダンジョンだから、そもそも監獄にするにはオーバーサイズなんだよ。過密してるのも上のゴミ箱だけ。他はびっくりする程ガラガラでユンちゃんはいつも寂しい思いをしています!」


 罠を解除する間に、ユンからアルカトラの内情が語られる。そもそもアルカトラは重大犯罪者しか入ることのない監獄。ある程度法と倫理が整ったこの世界において、アルカトラに収容しなければならない程の犯罪者はそうそう生まれないはずだ。

 

 加えてここアルカトラは元ダンジョンの巨大監獄。その全てが檻になっている訳ではないだろうが、スペースなら十分に有り余っているのだろう。


「そういえば君って百層から来たんでしょ?百層に入れられる人間なんて本当にいたんだね。無実の罪を着せられたとか言ってたけど、何があったの?」

「幼い頃から共に過ごして七年もの間冒険者として苦楽を共にした相手から追放された。しかも『お前は野放しにしておけない』とか言われてここに閉じ込められたんだ。」

「うわぁ……信用ないんだね君。けど安心してよ!少なくとも僕は裏切る気なんてないからさ!」


 高らかにユンがそう言いながら平たい胸をポンと叩く。その無駄に自慢げな表情を見ながら、ガジュは素朴な疑問を抱いていた。


「じゃあこっちも聞くが、六十層に一人収容されてるそっちは一体何をしでかしたんだ?待遇は良さそうだったけれど、半分より下の檻にいるんだ。軽犯罪って言葉じゃ済まされない罪だろ。」

「いやいや、こっちは美少女だよ?美少女は犯罪なんて犯さない。僕も君と同じようにあらぬ罪を着せられた可哀想な少女なんだよ……。およよ。」


 嘘か本当かわからないふざけた口調。何というか誤魔化された気がしなくもないが、まぁここで深く追求してもまた煙に撒かれるだけだろう。ガジュがある種の諦めを感じた所で、ちょうど彼は扉の罠を解除し終えた所だった。


「よし、これで大丈夫なはずだ。さっさと上に上ろう。」

「でかした!スケスケの効果ももう終わっちゃうしね、急いで急いで!」


 ガジュの広い背中が軽く押され、二人は次の階層、アルカトラのゴミ箱へと足を踏み入れたのであった。

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