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60.ガジュの憤慨

「なぁ、俺達に今必要なものって何だと思う。」


 不意に投げられたガジュの問い。それに対し、辺りでドタバタとしていた四人が順に答えていく。まずは呑気に本を読んでいたユンである。


「う〜ん、自由かなぁ。せっかくアルカトラから脱獄したのに、ガジュの故郷と都会にしか出かけてないし。僕はもっと綺麗な景色とか!お洒落なショッピング街とか!そういう所に行きたいよ!」


 そういう話で行けば剣と酒の街イリシテアは丁度いい場所であったのだが、残念ながらこの街はバーゼによって何の面白みもない場所に作り替えられてしまった。奴がいなくなったことでこれから元に戻ってはいくだろうが、それは凄まじく先の話だろう。次に問いに答えたのは、こちらも呑気にパンを作っていたクルトだ。


「チョコレートだな!今回の戦いでチョココロネの材料が枯渇してしまった。吾輩の生活の為に一番必要な物は間違いなくチョコレートだ!」


 まぁ、この悪の覇王の話は取り立てて真面目に聞く必要はないだろう。チョココロネの有用性に関しては審議の余地があるが、ガジュがしているのは『クリミナル』の話だ。今度はその一員であるキュキュがクルトと共にパンを捏ねていた手を止め、返答する。


「しゃ、社会的信用でしょうか……。皆さんには私という超絶お荷物を抱えさせてしまっているので、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいです。そうだ、この愚か者が命を断てば問題は解決ですね!すみませんすみません!」

「死ぬんじゃない!お主の手は大きいから、パンをこねるのに向いてるんだ!死ぬぐらいなら吾輩のところに来い!」


 これまでの二つと比べれば、キュキュの解答はかなりマシな方だ。キュキュの件はともかく、ガジュ達はアルカトラ脱獄以降、悪行を積み重ね続けている。この汚らしいレッテルを振り払う事ができれば、各方面で色々と動きやすくなるだろう。そして最後に、慌ただしく走り回っていたシャルルが声を上げる。


「間違いなく教養です!ガジュ達はあまりにもモラルと知識が不足しています!ゴブリンを引き連れて街を壊すだなんて……絶対にもっといい方法があったはずです!後始末をする身にもなってください!」


 バーゼ討伐後、ガジュ達がイリシテアに残っているのはガジュ達自身のせいと言っても過言ではないだろう。バーゼは仮にもイリシテアの統治者。あの男がいなくなったからには、誰かがこの街を復興させなければならない。ゴブリンによって壊された街とバーゼが壊した文化。それらを元に戻すため、シャルルは両親の葬式も早々にあくせくと働いている。別に彼女がこの街を仕切るわけではないが、荒れた街を見過ごさないのがシャルルという人間だ。


 そして、彼女が言っている事がガジュにとっての正解でもある。


「そうなんだよ!俺達にはあまりにも教養がない。一般常識がないから乱雑な作戦しか取れないし、戦術の幅も狭いんだ!だからあのクソったれに良いように使われた!これは許されざる事態だろ!」

「一応ガジュ達の密命のことは聞きましたが、あれはどちらかというとガジュが悪いと思います。シャルを助けてくれた事には感謝しますが、そもそもガジュは密命のことを完全に忘れていたでしょう。」

「乱雑な作戦しか取れないのもガジュのせいじゃない?間違いなく僕らの中で一番頭悪いのはガジュだし。アルカトラにずっといた僕らより頭悪いって相当問題だと思うよ。」


 勢いよく立ち上がったガジュに対し、両脇から言葉の刃が突き刺される。ユンの言う通り、ガジュの頭が悪いのは完全にガジュ自身の問題だ。ユギ村にいた頃は自分を最強だと思っていたから、座学を一切積まなかった。冒険者になってからもその習慣だけは維持され、暇さえあれば筋トレ。頭が悪いことの原因は全てガジュ自身にあるのだ。


「お前らはケネを許していいのか!?俺達はあんな死闘を乗り越えたんだぞ!?それなのに全員銀等級!あまりにも不当だろ!」

「僕はどちらかというとガジュへの苛立ちの方が多いけどね。そもそも僕は依頼を受けるのに反対してたし、適正検査だけで終わってれば、僕らはもっと上の等級からスタートできたもの。完全に貰い事故だよ。」

「説明もなしにバーゼを持っていかれた事には腹が立ちますか、恨んでいるかと言われるとシャルの答えも否です。後任の政治学者をこの街に派遣してくれましたし、腹の底は読めませんが、悪人とは呼べないと思います。」


 感情的なガジュと、理性的なシャルル、ユン。この会議にクルトが混じっていればガジュの味方をしてくれるのかもしれないが、奴は今パン作りに夢中である。ガジュはもう同意を求めることもなく、ただ指針だけを示していく。


「とにかく……俺達は知恵をつける必要がある。どこかの学術機関で知識を蓄えながら、魔物を討伐して等級を上げる。俺らが取れる最適解はそれだろ。」

「まぁそれは一理あるかもね。どうせ昼間は洞窟でもないとガジュが使い物にならないし、バーゼが言っていた魔族とかいう存在の件も気になるし。魔族と契約してスキルの性能を向上、僕の知らない概念だよ。」


 凍龍などのように偶然遭遇した場合はともかく、冒険者が冒険者協会から紹介される魔物討伐依頼には制限がある。銀等級は銀等級にふさわしい弱い魔物を。黒曜等級には黒曜等級らしい強力な魔物を。その前提がある以上、ガジュ達はこれから先弱い魔物を倒して経験を積み上げることしか出来ないのである。


 それならば、別の事と並行して等級を上げていけば良い。そういった判断でガジュはこの提案をしたが、そこに思いがけない人間から賛同の声が上がる。


「いいと思うぞ!学術機関なら吾輩も紹介できるしな。ベリオット冒険学校!新米冒険者が働きながら知識を積む、まさにガジュに打ってつけの学園だ!」


 自称悪の覇王が何故そんな場所に顔が効くのか。その言葉を喉元で押し殺し、ガジュは鞄に荷物を詰めていく。

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