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57.正義とは

 背中に生えた大きな翼と、無駄に豪華な冠。両手に握られた盃には水が溜まり、明らかな異形の体を為している。


「おいシャルル。こいつは早着替えの能力でも持ってるのか?こんなセンスのない服装に着替えたところで意味ないと思うんだが。」

「分かりません。というかまず服なんですか?背中の翼、あれ間違いなく本物ですよね。」

「あいつ、鳥人だったのか?それならお前の背中にも……。」

「わぁ!服をめくらないでください!シャルは純粋な人間です!」


 天井を見上げて硬直するバーゼを睨みながら、ガジュがシャルルの服を捲る。一応妹ではあるはずだから、バーゼが鳥人ならシャルルにも似たような翼が生えているはずだが、それは見当たらない。そもそもつい先ほどまではバーゼにも翼はなかったのだ。血統やそういったものの影響ではない。明らかに、何か別の……特殊な力が働いている。


「ふひひひひ!僕は秩序を守る為に全てを尽くしたんだ。それはそう、この体すらもね。僕の全ては、魔族のものだ。」

「魔族……魔物とはまた別なのか?シャルル、知ってるか?」

「前から思ってましたが、ことあるごとにシャルに質問するのは止めてください。シャルはユンと違って何も知りません。」

「ふむ、それは確かに。ってなんか来るぞ!」


 どうでもいい話をしている間にバーゼが手を大きく振り上げ、塔の天井がポロポロと崩れ落ちる。ガジュが壊した時のように乱暴な壊れ方ではなく、ただゆっくりと降ってくる瓦礫。その中に混じって、二匹の鈍色の化物が降り注ぐ。


「おいおいなんだこいつら!形的には人っぽいが……どうみても人の色じゃないぞ!」

「こ、これ……!」

「ふひひっ、そうだよシャル。僕は魔族と契約し圧倒的な力を手に入れたんだ。僕の【秩序の管理者(テンパランス)】にもう人数制限はない。そしてこの姿になった僕なら……屍人も操れる。」

「正義に……正義に反しています!」

「待てシャルル!死ぬ気かお前!」


 ゆっくりと立ち上がり、明らかな敵意を見せる化物。そこに向かってシャルルが突撃していくのを見て、ガジュは咄嗟に彼女の体を押さえる。ガジュには何が何だか分からないが、目の前の相手が危険なことは分かる。立ち上る異臭と腐った体。バーゼの言う通り、これは間違いなく人の死体だ。


 そしてこのシャルルの激昂具合と、死体の顔つきからして……。


「これは、いやこの人達は、シャルの親です!」

「そうさ!数年前愛すべき妹自身が手にかけた、僕らの両親だ!秩序を乱し、正義に反するこいつらには、僕の為に働いて貰う!」

「ちっ、シャルルは下がってろ!」


 八年前、バーゼに洗脳されたシャルルによって殺害された、バーニュ夫妻。この化け物の正体がそれだと言うのであれば、ガジュが前に出るしかない。現にシャルルはガジュの後ろでうずくまっているし、こうなれば自分が戦う以外の選択肢はないだろう。ガジュはそう判断し、拳を握っていく。


「すべテハ、バーぜのたメニ。」

「やっぱり喧嘩売ってくるのかよ……!」


 先ほど倒した操り人形同様、ガジュに向かってバーニュ夫妻が魔法を放ってくる。どうやら息子達とは違ってスキルはないようだが、魔法の威力は一級品。本来であればすぐに飛びかかって腕の一本でもへし折ってやるところだが、そうもいかない。


 いくら屍とはいえ、相手はシャルルの両親だ。ガジュは暴れ回ることもできず、ただひたすらに魔法をその身に受けていく。そしてその後ろでは……シャルルが走り出していた。


「ふひひっ!敵前逃亡かい?愛すべき妹よ、正しい判断だよ!秩序を乱すだけの狂人とは離れるのが正解だ!後で迎えにいくからね、僕と一緒に秩序を正そう!」

「うるせぇんだよクソ野郎が……。」

「うるさいのは君だろう?君は愛すべき妹に見捨てられたんだ。大人しく、死ねばいいさ!」


 そういってバーゼが手を振り、バーニュ夫妻の攻撃が激化していく。相変わらず部屋は暗いまま。そう易々と倒されることはないだろうが、痛いものは痛い。ガジュは血反吐を吐きながら痛みを堪え、バーニュ夫妻の攻撃をひたすらに受け止めていく。


「バーゼ……。俺はお前のことを大して知らないがな、シャルルのことはよく知ってる。あいつは正義の化身だ。どんな状況だろうと、仲間を見捨てて逃げるような事はしない。」

「ふっ、ふひひっ!現に逃げられているじゃないか。いいかい、僕が昔愛すべき妹を洗脳したのは、彼女が正義正義とうるさい割に自我の薄い、決断力に欠けた子だったからだ。あの矛盾した性格ならば親を殺すという凶行に出たとしても怪しまれない。現に大人は皆そう判断していたしね!」

「それはあくまで昔の話だろ。いいか、年上の人間ってのはな、幼い子供を導く義務があるんだよ。」


 ガジュがそう告げた時、魔法を放ち続けるバーニュ夫妻が何者かに蹴り飛ばされ、見慣れた顔が三つ現れる。


「ひっ、す、すみませんすみません!さっきまで下で戦っていたのでその勢いでつい!すみませんすみません!!」

「やっほーガジュ!可愛い可愛いユンちゃん達が助けに来てあげたよ!」

「随分ボロボロだな!吾輩のチョココロネ食べるか、って言いたいところだけどもう在庫がない!残念だったな!」


 倒れたバーニュ夫妻の顔面をユンが躊躇なく踏みつけ、キュキュがその横で土下座する。緊迫した状況に相応しくないふざけた雰囲気と共に、シャルルはメガホンを手にしていた。

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