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55.引きこもり狩り

「何故……吾輩がこんな目に……。」

「半分持ちますよクルト。」

「シャ、シャルルゥ!シャルルだけが、シャルルだけが吾輩の癒しだ!結婚してくれ!」

「それは嫌です。貴方は悪の覇王なんでしょう?正義と悪は相入れません。」


 後方でグダグダと幼馴染二人が馴れ合うのを無視し、ガジュ達はユンを先頭にバーゼの隠れ家を目指していた。『クリミナル』四名は完全なる戦闘体制、そして最後尾の悪の覇王は荷物持ち。今日は着ぐるみではなく中の人が汗を流し、背負った袋は彼女の身の丈とほぼ変わらないサイズに膨れ上がっていた。


「おいガジュ!何故吾輩はこんな目に遭ってるんだ!シャルルを助けてくれたことには感謝するが、あまりにも説明不足だろ!もっと悪の覇王を労れ!」

「バーゼを倒すにはお前のパンが必要なんだよ。細かいことはわからんが、それが事実なことは間違いない。」


 バーニュ家邸宅を出た後、ガジュ達が一番に向かったのはクルトから聞いていたイリシテア住民の避難場所であった。ゴブリン達が暴れ回った中心街から少し離れた場所にある古びた教会。そこに集まっていた大量の住民達の中からクルトを見つけ出し、ありったけのチョココロネと共にバーゼ討伐へ同行させたのである。


 バーゼを倒すにあたって最も厄介なのは間違いなく奴の操り人形達だ。イリシテア住民達の一割ほどが避難場所から姿を消していたところからして、消えた住民達は皆バーゼの操り人形として奴の隠れ家に控えているのだろう。相手が一般人とあれば無闇に攻撃するわけにもいかない。出来ることはただ、パンを食べさせることだ。


「お前のパンはどうやら人の精神をリセットさせる力があるみたいだからな。キュキュとユン、それにクルトは三人で分担して、洗脳されている人々にチョココロネを食べさせろ。バーゼは、俺とシャルルで倒す。」

「はい。身内の悪は、今度こそ私が裁きます。」


 そういってシャルルが腕に力を込める。アルカトラで持っていた棍棒も、バーゼに授けられた警棒もない。今彼女の右手にあるのは、クルトがパン作りで愛用しているめん棒だけである。


「お、ここだよここ。ほら見てよガジュ。ガジュが好きそうな暗い塔でしょ?」

「本当だな。近頃はずっと明るい場所で戦わされてムカついてたからな……。やっと全力で暴れられる!」


 シャルルは言うまでもないが、バーゼと戦う係にガジュが割り当てられているのは、ユンから告げられたバーゼの隠れ家がガジュにとって最高のロケーションだからだ。元は時計台らしい古びた巨塔。建築年数こそ長いがバーゼが住み着いているから定期的に補修が為され、建物自体に傷はない。加えて陰鬱な家主の性格が反映されているのだろう、窓は全て木板で塞がれ入口は一階の狭い扉のみ。近隣住民からは『幽霊塔』などと呼ばれているその場所は、【闇の王(ナイトメア)】の力を最大限発揮させてくれるはずだ。


 ガジュ達が入り口の前に立ち、遥か上空に見える塔の先端を眺めているとどこからともなく声が響き始める。


「ふひひ……ちょこまかと面倒臭いドブネズミがここまで……。一体どれだけ秩序を乱せば気が済むんだ。愛すべき妹もいつの間にか正気に戻っているし……。お前らが引き連れてきたゴブリンの後始末をするのがどれだけ大変だったかも知らないで。」

「うるせぇ野郎だな。ゴブリンを倒したのはシャルルだし、現在進行形で街を直してるのはクルトの(しもべ)達だ。」

「そうだそうだ!どちらかというと文句を言う権利があるのは吾輩だからな!ふざけるなガジュめ!」


 どこからしゃべっているのか知らないが、このネチョネチョした喋り方は間違いなくバーゼだ。ガジュは横で喚く悪の覇王の頭を押さえつけながら取り敢えず扉を睨み、シャルルが声を上げる。


「バーゼ!言っておきますがシャルは貴方のことを兄だとも家族だとも思っていません!貴方は秩序、シャルは正義!ただ己の信じるものを貫くだけ!そこに関係性などありません!」

「ふひっ。何を言ってるんだい?兄は妹を愛し、妹は兄を愛す。それが家族の中での秩序だろう?僕達は一度それに反したんだ、残った二人ぐらいは仲良くしようじゃないか。」

「黙れ黙れ!シャルルを一番愛してるのは吾輩だぁ!」

「……お前は一度黙れ。真面目な話をしているんだ。」


 ガジュは掴んでいた頭を更に更に押し込み、喚き散らす悪の覇王を黙らせる。バーゼとシャルルは最早兄妹ではない。ただ信念を押し通すものとして二人は声を掛け合っていた。


「まぁ好きにしたらいいさ。ここは僕の根城で、その扉も特別製。中に入ることすら敵わないだろうからね。それじゃ、頑張るといいよ。ふひひっ!」


 その言葉だけを残し、バーゼの声が途絶える。彼からすれば煽りであったのだろうが、ガジュに煽りは逆効果だ。ガジュは扉の前で拳を打ち鳴らし、全身の筋肉を震わせていく。


「みくびんじゃねぇぞクソカスがぁ!ユン!」

「またぶち上がってるよこの人は……。まぁいいや、頑張ってねガジュ!モヤモヤ!」

「っしゃおらぁ!」


 ガジュの体をユンの魔法が包み込み、窮屈な暗闇の中から拳だけが噴出する。それが扉に触れた途端、扉はおろか塔の一階部分が音を立てて崩壊していった。

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