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47.三つ目

「いいねいいねぇ!虫は数がいてなんぼだよねぇ!」


 ユンがサンドワームを一匹蹴散らしたのに呼応し、地面から次々と同族が湧き出る。ものの数秒で視界を埋め尽くしたサンドワームを眺め、ユンは高揚していた。


「あぁダメダメ。最近ガジュを見慣れてたから、つい戦いになるとテンションがハイになっちゃうや。僕らの仕事はこいつらをイリシテアまで運ぶことだもんね!よし、行くよキュキュちゃん!」

「は、はい!すみません!」

「うるさいから謝るの禁止!謝罪したいなら……後で反省文でも書くといいよ!勿論提出先はガジュね!」


 間近に迫っていたサンドワーム数匹を一殴りで片付け、ユン達はイリシテアに向かって走り出す。ガジュはユンとキュキュの移動速度を同等に評価していたが、ユン自身からすればその認識は間違いだ。『魔拳』を応用して魔力を足に集中させれば、獣人の速度など軽く凌駕できる。


「これだけの巨体を何匹も連れて行ったらバーゼを誘き出すどころかイリシテアが崩壊しかねないからね!走りながら適度に数を減らしていこう!キュキュちゃん、僕に【強化】のターゲット設定しておいて!」

「わ、分かりました。」

「僕は所々で止まって近くの個体を叩き殺すから、キュキュちゃんは何があっても止まらずに走り続けるんだよ。大丈夫、僕実はちょー強いから!」


 ガジュと出会って檻を脱出して以降、ユンが本気を出した時はアルカトラ上層のダンジョンでキュキュから逃げていた時の一度きりだ。ガジュに命令されてダンジョンの後半に生息してた魔物を蹴散らした時も、凍龍との戦闘時ガジュを闇魔法で包んだ時も、ユンは精々準備運動程度の力しか出していない。


 ユンは勢いよく踵を返し、蠢くサンドワームに突撃。飛び込んで来た恰好の餌を捕食するべくサンドワームがユンの周りを取り囲み、大きく口を開く。全方位見えるのは魔物だけ、キュキュとの距離も十分。それを確認し、ユンは手を空に掲げた。


「攻撃魔法なんて久々に使うなぁ……。僕の元にやってくる精霊達って怠惰だからさぁ、コントロールってものをいつまでも覚えてくれないんだよね!メラメラ!」


 ガジュがいれば「センスがない」と一蹴されそうな呪文を詠唱し、ユンの上空に巨大な火球が現れる。それは次第に地面へと近づき、サンドワーム達の茶色い肌を黒く焦がしていく。そうして沼地の枯れ木にまで広がった豪炎の中からユンが飛び出し、再びキュキュと共にイリシテアを目指して走り出した。


「す、凄い……。こ、こんなに強いのに、どうしていつも戦わないんですか……?」

「面倒くさいから!それ以外の理由なんて何もないよ!僕は自他ともに認めるクソ野郎だからね!他人にどう思われようと、僕は僕の生き方を貫くだけだよ!」

「じゃ、じゃあどうして今は本気を……?」

「うーんこれも本気と呼ぶにはまだまだって感じだけど……。最近頑張ってるのはガジュが面白いからかな!復讐に燃えて暴れるくせに仲間思いで、ちょっといやだいぶ馬鹿なとこを見てるとウキウキするんだよね!僕はずっと仲間との冒険に憧れてたからさ!さっ、もう一仕事!」


 地面から無限に湧き出てくるサンドワーム達を蹴散らすべく、ユンがまた魔物の群れへと突撃していく。今度は先ほどの倍。十体程のサンドワームに囲まれ、ユンが魔法を放とうとした時、キュキュの鋭敏な聴覚は異変を感知していた。


「ゆ、ユンさん!足元!」

「……へ?」

「ポォォォォォォ!!!」


 間抜けな声が響き、ユンの足元から突如としてサンドワームが飛び出してくる。サンドワームは群れでの活動を好む個体だ。群れの中に突撃してくる圧倒的強者を倒すべく、サンドワーム達も策を講じたのだろう。時間差で現れたサンドワームは見事にユンを一飲みし、キュキュの視界から青髪の美少女がいなくなる。


「私の……私のせいだ……。私が、何の役に立たない駄犬だから……。生きる価値のない獣人だから……。」


 励ますわけでも、怒るわけでもなく。ただ思うがままに生きろと自分に言ってくれたユン。彼女を目の前で失い、キュキュの蒼い目が燻んでいく。


 それはまるであのアルカトラでの一件と同じように。紅く色を変えたキュキュは、高らかに笑い始める。


「はっはっはっ!なんて、なんて醜い生物なんでしょう。愚かで下等で、仲間一人守れやしない。そんな生物に生きる価値があるのでしょうか……。あぁお許しください我が祖先よ。その忌まわしき血が背負った咎は未だ注がれません。」

「クポォォォォォ!!!」

「なればこそ……眼前の怪物を蹴散らすことでせめてもの贖罪を致しましょう。愚者に死を、死に救済を!【()()】」


 その言葉と共にキュキュの左腕は実態を失っていく。まるで霧のように黒いモヤとなったそれは次第に形を変え、キュキュの身の丈と同等の長さを誇る長刀となって彼女の左腕に纏わりついていく。


 こうして、キュキュの三つ目の顔が、姿を現したのであった。

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