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18.正義の使者

「はははっ!スキルさえ発動すれば体が強化されるからって自傷行為をするなんて、君は本当に頭が悪いんだね!」

「あぁ悪いさ!悪い上に弱いから荷物運びしか出来ず追放されたんだ!それが悪いかよ!半端もんで何が悪い!」


 一発一発が大地を揺るがすガジュの強拳をカナンは華麗に回避しつつ、まるで見せ物でも見ているかのように嘲笑う。結局のところ消せたのは松明だけ。天井から差し込む光は防げていないから【闇の王(ナイトメア)】の効果はおよそ70%ぐらいだろうか。それ程の力を発揮してもカナンは簡単に倒せない。ガジュもそれぐらいは理解している。


「さて、避けるのにも飽きてきたし対策をさせて貰おうか。【照明】【ミラー】。」


 立て続けにカナンがスキルを発動し、ガジュを取り囲む壁達は鏡に、床と天井は照明へと代わっていく。強力な光は鏡によって反射され、これでもかというほどにガジュの体は煌々と照らされる。【支配者の唄(スカー・カラー)】による囚人達のスキル使用。これを攻略しない限りガジュに勝算はない。


「ほぉら、明るくなっただろう?これで君はまた無力な人間だ。今度は血で消えないし……皮でも剥いで床にばら撒いたらどうかな。」

「黙れ。いいか、俺は犯罪者を無闇に解放するつもりはない。だがここに囚人達を置いておけばお前に痛ぶられる。だからな、俺はこの監獄ごとぶっ壊すんだ。」


 ガジュはそう呟き、今度は鏡になった壁に手を触れる。【ミラー】とかいうスキルで壁が鏡になったのは予想外だったが、見た所材質が変わっただけで壁が新しくなったのではない。つまりガジュが松明を消し、【闇の王(ナイトメア)】の効果を発揮している間に施した小細工も、無駄にはなっていないということだ。


「火が灯るなら松明を、天井が光って壁がそれを反射するなら全部まとめてぶっ壊せばいいんだよ!」

「はっはっは!ほんと脳筋だねガジュ君!」


 ひび割れたガラスに爪を立て、ガジュは壁を引き剥がしていく。カナンに攻撃が当たらないからといってガジュの攻撃は無駄になってはいない。カナンに当たらない事を理解した上で壁や床を殴り、ひびを入れる。【闇の王(ナイトメア)】がすぐ対策されるのであれば、短い時間でより効率的な効果を引き出す。それが不便なスキルを使う上での最適解だ。


 ガジュは続けて天井と床を引き剥がしていく。壁を壊すのに比べれば骨が折れるが、鏡を壊したことでほんの僅かに暗くなり強くなった力であれば何とかなる。それにこの程度のことで疲れてはいられない。再び壊れゆく百層にいるのはガジュだけではない。カナンはともかく、今回は救わなければならない人間がいる。


「監獄を壊して、シャルル君を助けて、君は馬鹿な上に欲張りだね。」

「欲張りじゃないと脱獄囚なんて務まらないんでな!お前はここで埋まってろ!行くぞシャル!」

「シャルは……シャルはぁ!!!」


 相変わらず世迷言を呟き続けるシャルルを肩に担ぎ、ガジュは降りかかる瓦礫を登っていく。加えてシャルルの首輪も破壊したからこれでカナンは【投獄】を使えないはずだ。


 それにしてもどうして百層に来ると毎回こうなるのだろうか。元がダンジョンだから普通の洞窟とはまた別物なのだろうが、最早アルカトラが一斉に崩壊しないのが不思議なぐらいである。


「百層を抜けたからといってどうするつもりなんだい?その頭がおかしくなった女の子を背負って地上まで行くのがどれほど難しいか分かるだろう?一度上まで行けたからといってもう一度行けるとは限らない。今回は僕という追手がいるし、道中にいる看守達も全員君を狙ってる。」

「なら全部壊せばいいだけだろ!」


 百層から抜け出して九十九層。前回空けた縦穴も埋められているし、案の定この階層も明るく照らされているから超次元パワーは発揮できない。一階毎に天井を殴って壊さなければならない以上、普通にやれば地上まで行くには相当な時間がかかるだろう。


 だが手立てがないわけではない。狙い目は各階の天井を壊し瓦礫が降り注いだその一瞬。瓦礫がガジュの体を隠し、体に影が落ちるその一瞬だけは【闇の王(ナイトメア)】の効力は格段に跳ね上がる。ガジュはそのタイミングを見計らって拳を振るい、可能な範囲の最高速でガジュは上を目指していく。登り方にしても前回のような人間離れした動きではない。ただの人間と同じように全身の筋肉を活かして瓦礫を登っていくのである。


「君達、その男を捕獲しろ。捕獲した奴には褒章をあげるよ。」

「カナン様!かしこまりました!」


【投獄】がなくとも身体強化系のスキルを持った囚人など山のようにいるはず。それなのにカナンがガジュの前に出ようとしないのは奴が言う()()の一種なのだろう。そう解釈しガジュは自身を捕獲しようとする兵士達を倒していく。機動力がない故にこの程度の兵士達にも時間を取られるのがとにかく億劫だが、どうにもならないから諦めるほかない。ガジュがそう思った時、肩の幼女が子供らしい暖かい息を吐き始める。


「うぅ……シャルは……。シャルはぁ……!」

「うめく暇があるなら助けてくれよな……!こちとら勢いと正義感だけでほとんどノープランなんだ。いい加減革新的一手を打たないと捕まっちまう!」

「正義……?あぁうぅ……正義、正義正義正義……!」


 ガジュが何気なく放った言葉に反応し、シャルルの虚な目が輝き始める。


 アルカトラの囚人はどいつもこいつも狂っている。


 ガジュのそんな偏見の根拠がまた強固になっていき、二人の体は瞬時にその場から消えていた。

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