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103.内輪揉めの練度

「我はデビル。憎悪を示す者。力を見せろ、ガジュ・アザッドよ。」

「次から次へとよくもまぁ魔族が出てくるもんだな。後お前、剣の持ち方間違えてんぞ。」


 ガジュを見つめ、口から血の涎を流すデビル。その手に持たれた剣は何故か刃の部分を掴まれており、その容姿の全てが意味不明である。


「まぁ別に誰が来た所で話は簡単だ。魔族なら、ぶっ倒せばいい。」

「やってみるがよい。が、貴様を倒すのは我ではない。ただ貴様が憎悪する相手を顕現させるのみ。」

「はぁ?って……おいおい。何だこれ。」


 取り敢えず出来ることはぶん殴ること。ガジュが周囲の明るさを確認して拳を握ると、目の前に見慣れた顔が現れる。


 見るからに弱そうな金髪幼女。

 立派な犬耳を揺らすネガティブ女。

 そしてニヤニヤした変人。


『クリミナル』の面々が眼前に立ち、ガジュは薄い笑みを浮かべていた。


「憎悪憎悪っていうから何をするかと思えば、ただのうちの馬鹿達じゃないか。別に俺はこいつらに何の憎悪も抱いていないぞ。」

「そんなことは知っている。我は憎悪を示す者。貴様が信頼する仲間に、憎悪を植え付けるのが仕事である。」

「はぁ……?」


 腑抜けた声が口から漏れた途端。ユン、キュキュ、シャルルの三人は一斉に展開し、ガジュに向かって突撃してくる。

 なるほど、どうやらこのデビルとかいう魔族は他とは一風変わった力の持ち主らしい。身内の幻影を作り出し、そこに憎悪を植え付けて対象を攻撃させる。


 ガジュからすれば、児戯に等しい攻撃だ。


「言っとくがな。俺、いや俺だけじゃないな。ユンにしろシャルルにしろ、俺達は仲間を殴ることに躊躇なんてしない輩だ。キュキュぐらいは躊躇するかもしれないが……残念なことにあいつが一番身内を攻撃してる。」


 ガジュが一番に突撃してきたユンを蹴り飛ばし、遠くのデビルを睨みつける。イリシテアでのシャルル、キュキュに関しては枚挙に暇がない程。数多くの内輪揉めを乗り越えてきたガジュにとって、仲間を殴り飛ばすことに対する動揺などこれっぽちもありはしない。

 あるのはただ、目の前の仲間達への恐怖心だ。


「貴様らがどういう関係性だろうと、憎悪には関係ない。ただ圧倒的な暴力と、裏切りの恐怖に打ち震えるがいい。」

「そっちは確かに恐ろしいな……。こいつらの強さは、俺が一番よく分かってる。」


 幻影とは言ったものの、目の前の三人組は本物と全く変わらない性能をしているらしい。

 ガジュがパッと見渡した限りでも足元にはシャルルの印が数十個。ユンと連携してこちらに殴りかかってきているキュキュは定期的に【強化】をユンに使っているようだ。

 そして【強化】されたユンはというと、一心不乱にガジュを殴り続けている。


「もっと、もっと憎悪を示せ!あらゆる負の感情を解放させ!全てを滅ぼすのだ!」


 デビルの叫び声が響き、ユンの拳に魔法の火が灯されていく。こうなってくると事はより一層面倒だ。ただ馬鹿みたいに殴りかかってくるだけならともかく、魔法まで使ってこられては、ガジュに打つ手はない。

 デビル本体を叩きのめすという選択肢もないわけではないだろうが、相手はそもそも神出鬼没の魔族。加えて移動超特化のシャルルが間にいるとなると、奴の元に辿り着くだけで困難だろう。


『クリミナル』の幻影を各個撃破の後、デビルを殺す。


 それ以外に道はない。


「【闇の王(ナイトメア)】の効果は精々60%。スラムが暗くて助かったといえば助かったが、ユンに勝つのは絶対無理だな。となると狙うのはキュキュかシャルル……。【投獄】しか出来ないシャルルは追うだけ無駄だから、選択肢は一つだけか。」


 さしもの魔族といえど、キュキュのあの厄介な性質までは再現出来なかったのだろう。【狂化】も【凶化】も使えないキュキュなどただ身体能力が高いだけのサポート役。中途半端な強さのガジュでも十分に倒せる相手だ。

 ガジュは変わらずユンと二人で殴りかかってくるキュキュの腕を掴み、浮いた体に拳を叩き込む。

 すると殴られたキュキュの口から、血や唾の代わりに煙が吐き出され、厄介な幻影は一つ数を減らしていった。


「おいデビル。お前がいつのこいつらを参考にして幻影を出してるか知らないがな、うちのキュキュはこんなに弱くないからな。それだけは覚えとけ。」

「ふっ、ならば他の駒を使うまでよ。憎悪に……終わりはない。」


 その言葉と共に動き始めるシャルル。デビルの幻影がどの程度の精度なのかガジュには計り知れないが、恐らくこいつは幻影達を一斉に細かく操作するのが苦手なのだろう。キュキュがガジュに掴まれている間、ユンやシャルルがカバーをする様子はなかったし、シャルルがテレポートを開始した今、ユンは完全に硬直している。


「使う順番が間違ってんだよ。うちの正義のヒーローは単体じゃ大したことない。ただ、仕留めにくいだけの小鼠だ!」


 どれだけ優秀な駒だろうと、操作するデビル自体の知能が低ければ何の意味もない。

 本来ならば味方を転移させてサポートに徹するべきシャルルは、何故か自分の体を転移させてガジュに殴りかかってくる。こんなプニプニした腕の幼女に殴られても全く痛くない。ガジュはシャルルの攻撃を回避することもなく受け止め、そのまま腹部を蹴り飛ばす。

 その軽い一撃でシャルルは煙と化し、残るは例の変人だけとなった。


「仲間に対する感情の薄い男だ。まぁよい。最後の駒は我からしても異質な存在。此奴の憤怒が、貴様を殲滅する。」

「こいつに憤怒なんて感情があるかは別としても……一番厄介なのは間違いないな。」


 ユンの幻影だけがその場に残り、ガジュは息を整える。

 なんだかんだこいつの本気は未だ見たことがない。まさか敵として見ることになろうとは思わなかったが……。とにかくやってみるしかない。

 ガジュは普段と違って寡黙な狂人と目を合わせ、固く拳を握っていた。

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