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101.怠惰を極めしものの審判

「なるほどねぇ。私兵がいないのは、自分が分身できるからか。変態がたくさん……最悪の光景だね。」


 窓を乗り越え、ユンとの距離を詰めていく大量のちょび髭達。顔も全く同じ、服についた絵の具の模様も何もかもが完璧に同一なところからしても、確実に分身系のスキルだろう。


 顔をピクリとも動かさずに迫ってくる画家達を睨みつけ、ユンは肩をほぐしていた。


「まぁ良かったよ。ただ分身してるだけなら、全部まとめて片付ければいいんだもんね。」


 魔力を足と腕にバランス良く集中させ、ユンは手近な分身を殴りつける。小さな拳が頭に命中すると、画家の分身は綺麗に弾け飛び、瞬時に消えていく。


「ん〜この感じだと本体以外はハリボテみたいなものなのかな。さっきからずっと黙ってるのも、そういう理由なの?」

「…………。」

「やっぱり喋る気はないと。まぁいいよ、僕としても変態相手にお喋りしたくはないからね!!!」


 寡黙だろうと何だろうと、この程度のレベルなら負ける気がしない。ユンは飛びかかってくる分身を片っ端から殴りつけ、その数を徐々に減らしていく。一応殴ったり蹴ったりの戦闘能力はあるようだが、だからといって脅威度は変わらない。

 ユンがそう思って分身の一匹を蹴りつけると、突如その細い体にカウンターパンチが入る。


「ん!?一発当てても消えない個体、ってことは今のが本物かな……。攻撃魔法はあんまり得意じゃないんだけど、火力を上げるしかないよね!メラメラ!」


 ダサい呪文と共にユンの手が燃え上がり、その勢いのまま先ほどカウンターを打ってきた個体を殴りつける。

 これで終い。ユンはそう思ったが、残念なことにその個体も消えてしまった。


「えぇ?これも分身?一個一個の強度が違うのかな。めんどくさいなぁ。頭使うタイプの敵、嫌いなんだけど。」


 タイミングを合わせ、一斉にユンを取り囲む分身達。その頭を回し蹴りで順番に吹き飛ばすが、やはり一体一体感触が違う。こうなればただ倒すよりカラクリを暴いた方が早い。ユンはそう判断し、仕留め損ねた分身に掴みかかった。


「質感は普通の人間。う〜ん、なんか違和感はないかなぁ。っとぉ、はっけ〜ん!」


 分身のつむじにあった謎の突起。ユンがそれを一思いに引っ張ると、分身は勢いよく消失しその場に数本の髪の毛が散らばる。

 やっと掴んだ攻略の手がかり。それを更に強固なものにするべく、ユンは迫る分身の頭を捻り素早く突起を引っ張っていく。


「ふむふむ。髪の毛を元に分身が作られていて、使用した髪の毛の本数によって分身の性能が変わるのかな。なるほど、実に禿げそうな能力だ。ってことはつまり、本物の特定も簡単そうだね。ビュービュー!!!」


 数匹の分身を髪の毛に戻したことで、ユンは画家のスキルを確信。瞬時に対抗策としての魔法を放つ。

 辺りに吹き荒れた強風は分身達の体を浮かし、ユンはその様を凝視していた。


「やっぱり浮き方がそれぞれ違う。使った髪の毛によって重さが違うんだ。つまり、一番浮いてない君が本物でしょ!」


 勢いよく飛び出し、分身の中を駆け抜けていくユン。数百だか数千だか知らないが、本物の位置さえわかれば分身をいちいち相手する必要はない。本物をワンパンすれば全部解決だ。


「面倒事を捌くのだけは得意なんだよねぇ。魔力の残りも少ないから、これでトドメだよ。じゃ、おやすみ変態さん。ムキムキ。」


 ユンの細い右腕が一気に膨れ上がり、ガジュよりも何倍も太くなった腕で本物の画家を殴りつける。案の定殴られた個体は消えることもなく吹き飛び、屋敷の豪華な壁へと叩きつけられる。口からとめどなく流れる鮮血と、凹み切った頭部。これまでのものとは全く違う手応えにユンは勝利を確信した。

 だがユンの想像とは裏腹に、辺りの分身達はそこに立ち続けていた。


「ん〜?なんだなんだ?今のがメイン個体なのは間違いないと思うんだけどなぁ。殺し損ねたか、裏があるか。」

「沈黙とは……何者にも勝る武器である。」

「え?何急に、もしかして……第二ラウンド?」

「沈黙とは審判。審判とは、大いなる声である。」

「はぁ……?声が小さいんだって。もっと大きな声で喋りーー」

「「「「裁きを!!!!」」」」


 何やらボソボソと呟き始めた本物にゆっくりと近づいたユン。その迂闊な動きを見計らっていたのか。それとも、最初から計算していたのか。

 最早全く警戒していなかった寡黙な分身達が一斉に声をあげ、ユンの鼓膜が張り裂ける。

 そして耳から血を流しながら睨みつけた本物の画家は、いつの間にか大きな笛を手にした異形へと姿を変えていた。


「我は『ジャッジメント』。全てを裁き、統べる者。復活こそ、我が力。」

「なるほどねぇ……。小細工を重ねる魔族かぁ。実に、迂闊だった。」


 最初から人間の姿の分身を大量に出しておき、自分本人も人間の姿をした分身と合体することで姿を隠していたのだろう。どこからが画家本人のスキルで、どこからが魔族の力なのか知らないが、何にせよ全ては計算だった。

 ジャッジメントはゆっくりとユンに近づき、ムキムキの効果も切れて動かなくなった細腕を持ち上げる。


「ついに辿り着いたぞ……。貴様を探すために、我々は……。」

「はぁ?聞こえないっての……。言っとくけど、僕は君みたいな小癪な魔族とお友達じゃない。お友達なのは……やたら僕に忠実なケルベロスだけだよ。」

「ゆ、ユンさん!!!大丈夫ですか!!!」


 掴んだ腕を捻り切ろうとするジャッジメント。その背中に綺麗な蹴りが入り、死にかけのユンの体は一匹の獣人によって救出された。

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