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100.面倒事

「なんか嫌な予感がするねぇキュキュちゃん。変態の匂いがプンプンするよ。」

「そ、そうですね……。なんというか、こ、怖いです。」


 薄暗い、というか何故か紫色の光でぼんやり照らされた屋敷。ユンとキュキュはクルトから指示された通り、アザストの外れにある画家の家へと侵入していた。

 ここの主人は奴隷商人から奴隷を仕入れず、スケッチ旅の途中で美人を拐って来ているそうだから例の裏商人が転がっている可能性は非常に高いだろう。絶対に守るべきシャルルでも、力が不安定なガジュでもない、ユンとキュキュという三組の中で最強のペアをこの場所に派遣した時点で、クルトもここが本命だと思っているはずだ。


「やだなぁ……。僕可愛いから変態画家に捕まったら酷いことされちゃうよ。こっわ〜い。」

「だ、大丈夫です。わ、私が守りますから。」

「頼もしいねぇキュキュちゃんは。もしもの時はお任せするよ。って、あれ?」


 遠くから聞こえてくる地鳴りの音。自然災害というか、大量の人間がこちらへ駆け寄ってくるような、そんな音が響き渡り、ユンを守るべくキュキュが震えながら前に出る。


 そうして現れた一団の先頭では、彩鮮やかな髪の毛を振り回す小さな少女が拳を振り上げていた。


「皆のものーーー!!!決して止まるな!止まらずに走り抜けー!!!ついでに道中で高そうなものがあったら全部奪えーーー!!!」

「うわぁ……。なんか面倒そうなのが走ってきたよ……。」


 やはりここが当たり。つまり一番面倒な現場であることを確信し、ユンはため息を吐く。あの少女の見た目はクルトから聞いている裏商人の外見と完全一致している。


 低身長で長髪。黒い地毛にこれでもかというほどエクステを付け、妙なテンションで話す変人。


 逆にここまで分かりやすいとは思わなかった。


「ちょっとそこの君、僕らクルちゃんに頼まれて裏のチョコレート商人を探してるんだけど。君で間違いない?」

「なっ、覇王様が私のことをお探しに!?なんと有難い……。そうとも!我こそは義憤に燃えし仁義の商人、シャプナ!悪虐非道の輩から価値ある品を奪い、覇王様のような聖人君主にお売りすることを生きる意味としておる!」

「元気だねぇ。僕らはユンとキュキュ。クルちゃんのお友達。で、後ろの人達は?」

「ここに囚われていた奴隷達である!悲運なことに我はここの主たる画家に捕縛されてしまったからな。脱出ついでに全員解放して参った!」


 流石はクルトの知り合い。あの溌剌とした覇王と同じテンションでシャプナは腕を振り、ユン達の前で暴れ回る。ドレスのようなものを着せられた後ろの奴隷達と違い、シャプナは腰にフラスコのようなものをぶら下げた冒険着。多分この館に連れてこられ、何をされるまでもなく脱出して来たのだろう。


 実に見上げた行動力である。


「じゃあまぁさっさと帰ろうか。僕らのお仲間の幼女がいれば良かったんだけどね。残念ながら僕らは戦闘員だから走って帰るしかない。キュキュちゃん、後ろについてあげて。前は僕が守るよ。」

「わ、分かりました!」

「感謝するぞ、覇王様のご友人方。屋敷に兵士の類は見られなかったが、一応追われる可能性はあるが故。」

「兵士とかいないんだ。個人で誘拐してるような輩だから私兵を雇ってるかと思ったのに。」

「我もそう思ったんだがな。思えば我が捕まった時も、気づかぬ間に眠らされていたのみで囲まれたような覚えはない。恐らく画家本人が捕縛に適したスキルを持っているのであろう。」

「なるほどねぇ……。面倒なようなそうでもないような。」


 ユンにとって一番大事なことは面倒かどうかだ。今回の目的であるシャプナ奪還は達成、後はいかに面倒事を避けてアジトに帰れるか。彼女の頭の中には、その一念しか刻まれていない。


 だが残念なことに、面倒は避けられなそうだ。


「一つ聞くけど、シャプナちゃんはどういうスキル持ってる?」

「我のスキルは【商人の秘密(パンドラ)】。生物以外のあらゆる物体を無限に保有することが出来る代物である。武器類や煙幕等、あるいは食品や奪った商品などあらゆる物を貯蔵しておる。まぁ我自身が戦闘に長けておらぬから、武器を持っていても然程使うことはできぬが。」

「めっちゃ便利だね……。じゃあまぁ、それ使って頑張って逃げてよ。キュキュちゃん付けるからさ、荒事は彼女に任せれば大丈夫。」

「其方は、共に行かぬのか?」


 シャプナが不思議そうな顔を向け、ユンはそこから距離を取る。


 面倒事が嫌だ、疲れることは嫌だ。


 ことあるごとにそう言ってはいるが、結局色々巻き込まれるのがユン。そしてそれを渋々対処するからこそ、クルトやガジュに何だかんだ信頼されるのだ。


「キュキュちゃん、無事拠点に帰ったらクルトちゃんに言っておいてよ。『死ぬほど面倒くさかったから、ユンにありったけの褒美を用意しろ』ってね。」

「ゆ、ユンさん?た、戦うんですか?」

「うん。僕らの周りを取り囲んでる、変態共とね!」


 窓という窓から顔を覗かせるちょび髭の男達。全員が全員全く同じ顔をした彼らを見据え、ユンはいつも通りの笑みを浮かべていた。

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