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99.正義の味方

「だ、誰ですか貴方は!?黒い煙から出てきて……その見た目。まさか魔族!?」


 長い金髪と、大きなマント。目の前の鎌を持ったカラスに比べればいくらかマシだが、どうみても人間ではなさそうな女を見上げ、シャルルは狼狽していた。


「私はジャスティス。正義を司どる魔族にして、君の味方だ。」

「は、はぁ……!?魔族なのに味方って、何を言っているんですか!」

「種族で判断するのは愚かなことだよ。悪い魔族もいればいい魔族もいる。大事なのは、正義を持っているかだ。」

「うっ、そ、それは確かに……。」

「心配せず、私に全て任せるといい。私はいつだって、正義の味方だからね!」


 ジャスティスがシャルルの横に並び、デスを睨みつける。シャルルの正義に狂った頭では、何が何だか全くもって理解できないが、今倒すべき相手がデスなのだけは確かだ。再びメガホンを口元に当て、シャルルは激昂していく。


 利用できるものは、全て利用しよう。


「要は、体に触れなければいいんでーーーす!!!暴れて下さーーーい!ジャスティーーース!!!」

「はっはっはっ!見上げた精神性だね!誰だ誰だと言いつつ人を素早く利用するなんて!本当に正義のことしか考えていないんだ!」


 シャルルは横で仁王立ちしていたジャスティスの腹部をめん棒でぶん殴り、【投獄】でテレポートさせる。転送先は先ほど宝石商の死体を見つけた時に書いた印。つまり、今のデスの足元である。


「いいだろう!こちとら魔族、いくら寿命を奪われたところで問題ないからね!デス!いざ勝負!」

「同胞でありながら牙を剥く。貴様のような者がいるから我が娘は消えたのだ。恨めしい……。」

「ジプシーが消えたのはそっちの責任だろう。物騒なことばかり言っているから、あの子がワールドに憧れるんだ。もう長年会っていないが、彼女もまた、正義に満ちてるからね!」


 ジャスティスが一切の躊躇なくデスを殴りつけ、デスもそれに抗うように鎌を振る。アスパと戦っていた時のデスはわざとアスパの攻撃を受けるような動きをしていたが、今回はそうもいかないようだ。


 魔族同士の戦いに能力は通用しない。


 ただ純粋な力と力のぶつけ合いが始まった、そうシャルルが思った時、デスは彼女の横に現れていた。


「面倒な女の相手は御免だ。貴様に死をもたらし、我が娘を探しに行かせてもらおう。死ね、小娘よ。」

「くっ!どっか行きなさーーーい!!!」


 デスの鎌が首元に触れそうになり、シャルルは咄嗟に【投獄】を発動する。何とか攻撃は回避できたが、奴の能力の効果は受けてしまった。シャルルの体は一気に重くなり、喉が痛み始める。


「大丈夫かい!?すまない、私が取り逃がした!」

「大丈夫です。シャルルはまだ若いですから、そこまで影響はありません。それよりデスを殺す方法を教えてください。触っただけでダメージを受ける相手にどう勝てばいいんですか。」

「さっきまでと同じように魔族である私が奴に殴り勝つ、あるいは遠距離攻撃ならダメージを入れられるはずだよ。要は、触れなければいいだけだからね。」

「なるほど……。とことん相性の悪い相手ですね。」


 シャルルもアスパも、敵に触れることで効力を発揮するスキルの持ち主だ。これが魔法を使うユンや高い筋力で石などを投擲できるガジュなら話も違ったかもしれないが、シャルルにそんなことは出来ない。【投獄】は印のある所にしか転移できないし、生物以外を対象にできないからこの手の戦闘において極めて無力である。

 このままジャスティスに全てを任せるという手もあるが、その場合は今のようにシャルルに標的が移るだけ。


 正義を振りかざすには、シャルル自身が強くなる他ない。


「ジャスティスとか言いましたか。魔族なら、契約出来ますよね。どうなっても構いません、シャルルと契約してください。」

「い、いいのかい?君は契約について色々と知っていそうだったから敢えて持ちかけなかったんだが……。」

「構いません。今一番大事なのはシャルの身の安全ではなく正義です。」


 どう考えても、この選択は間違っている。


 いくらジャスティスが善良そうだからといって、確実に信頼できるわけではない。契約によってデスを倒しても、かつてのバーゼのように自我を失い暴れ回ることは十二分にあり得る話。


 だがそれでも、その道を選ぶのがシャルルである。


「一つ聞きますが、貴方と契約してデスを倒した場合アスパは息を吹き返すと思いますか。」

「え?あぁそれは確実だと思うよ。デスは人の寿命を吸い取る魔族だからね、倒しさえすれば奪われた寿命は返還される。」

「ならもう迷いはありません。早くシャルと契約してください。それがシャルにとっての正義です。」

「い、良いんだね?私は君の体をどうこうするつもりはないけど、もしかしたら魔族の本能として暴れてしまうかもしれない。そうなった時、責任は取れないよ。」

「大丈夫です。そうなった時は、シャルの仲間が助けてくれますから。うちには、魔族ぐらいワンパン出来る化け物が二人もいますからね。」


 シャルルはめん棒とメガホンを腰に付け直し、横の魔族の手を掴む。その直後、ジャスティスの体は煙と化し、シャルルの目は金色に輝いていた。


「あぁ……ふざけた小娘だ。我が娘のように愚かで、馬鹿馬鹿しい。」

「我ながらそう思います。まさかシャルもバーゼと同じ道を辿ることになろうとは。ですがまぁ、これがシャルルの選んだ道ですから。ただ、正義のために!【正義の執行者(ジャスティス)】!!!」


 シャルルが叫びながら地面に触れ、大地が一気に抉り取られる。【投獄】に存在した制約の数々はもう存在しない。

 抉れた大地はデスの真上へと出現し、石の礫が雨のように降り注ぐ。


「くっ……。あぁ我が娘よ!お前にこの恨みを託そうぞ!死を、この小娘に死の鉄槌を!」

「正義は決して、死にませーーーん!!!」


 デスの体が石で貫かれていき、静かな裏通りにシャルルの咆哮だけがこだまする。

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