幻獣様のお世話係始める。7
そうして・・、少しずつ絵本を読んだり、中庭を一緒に散歩したり、一緒にご飯を食べたり・・と、お互いのリズムを掴めてきて、二週間が経った。
私は、この世界のことを全然知らないので・・
ベルナさんやマルクさんに聞いたり、本を貸して貰ってシルヴィオ様が寝ると、そっと起きて本を読む。
今は、10月・・。
夜の始まりの月というらしい。
30日周期で、時間も私の世界と同じような数え方だし・・、一年後までに覚えておかないと。季節の行事なんかもあるらしいから、メモしておこう。
カバンに入ってた手帳を出して、メモをしておく。
・・こんな風に書いていると、ここが異世界ではなくて、どこか旅行に行っている気分になるけど・・、大きな天蓋ベッドに気持ち良さそうに寝ているシルヴィオ様を見ると、現実を突きつけられる。
メモ帳を見て、こっちの曜日を見ると・・
急に寂しくなる。
そんな事を考えられるくらい、自分に余裕が出てきた証拠なんだろうけど。
今は、まだ泣く時じゃない。
ひとまずしっかり一年を乗り越える!
来週には、神殿でシルヴィオ様のお披露目会をするらしいし・・。しっかりしないと!頬っぺたをパチンと両手で叩くと、小さな足音がして足元を見ると、銀色の子犬・・じゃなくて、幻獣のシルヴィオ様が見上げている!
「起こしちゃいましたか?すみません・・」
私がそっと頭を撫でると、頭を小さく横に振る。
「抱っこしますか?」
そういうと、コクっと頷く。
うんうん、今日も可愛いな。そっと抱っこして、一緒にベッドまで行く。
「そういえば、ベルナさんに今日聞いたんですけど、シルヴィオ様ってもう少しで話せるようになるそうですね〜。幻獣って話せないのかと思ってたけど・・、お喋りできるなんて楽しみです!」
私がベッドにそっとシルヴィオ様を置いてから、横になってそんな話をすると、目をパチクリして私を見る。お喋りできるのが楽しみって言ったの・・意外なのかな?
「お話できたら、何が好きとか、こんな事したい!とか言えるでしょう?そうしたら、もっと色々してあげられるなって思ったんです」
そう話すと、シルヴィオ様は私の顔をぺろっと舐める。
うん・・、これは概ね賛成を得られたようだ。
私の胸の辺りに、体を丸めて寝るシルヴィオ様を見て・・、ちょっと撫でてから私も寝る。いつか話せたら楽しいなぁ・・なんて思いつつ。
そうして・・翌朝。
朝日を受けて、目を覚ます・・。
いつもだったら、顔をペロッと舐めるシルヴィオ様の気配がしない。
「シルヴィオ様・・?」
むくっと起きあがると、テラスの窓がちょっと開いている。
開いている!!??
嘘、いつ!??誰か連れ去った??
一気に顔が青ざめて、テラスへ裸足で駆け出す。
「シルヴィオ様?!!シルヴィオ様??」
胸がドクドク言う・・。
やだ・・、魔物??刺客??嫌な方向にしか思考が動かなくて・・、足が震えていると・・
「キサ」
子供の高い声がする。
声のした方を振り向くと、シルヴィオ様が花を口に咥えてこちらへ駆けてくる。
「え・・、今・・喋った・・?」
私は、シルヴィオ様は私の足元へやって来るので、静かにしゃがむとお花をくれた。
「前にキサが綺麗って言ってた花が咲いたからあげる」
ペラペラと喋るシルヴィオ様にびっっっくりして目を丸くする。
え!!??いきなりこんなに喋れるものなの??
幻獣だから???!!
震える手でお花をそっと見つめて・・
「ありがとうございます・・とても嬉しいです・・。でも、勝手に一人で外へ行っちゃいけません!!も、もう心配して・・もぉおおおお!!!」
喋ったことも嬉しいんだけど、いきなりいなくなってしまって、本当に心臓が止まりそうだった私は、姿が見えた事で本当にホッとして・・。安心した途端にボロボロに泣いて、シルヴィオ様を結局慌てさせる結果になってしまった・・。