幻獣も愛を囁く。
もう一生キサといられないと思っていた。
だから、成人の祝いの日・・
スメラタさんの話す言葉に、目を見開いた。
幻獣についての教育をなされた時・・、トーラ国の「異世界の乙女」は悪の心を持って、意のままに幻獣を操ったが為に、それ以降、神によって一年だけの間だけしか居られないと聞いたから・・。
その時は、何でそんな事をするんだ!
だからキサといられない!!
と、悔しく思った。
・・でも、そうでなかった。呪いによって、異世界の乙女は操られてしまったんだ・・。
あの、暗い・・思い出すだけで背筋がぞわりとする世界に閉じ込められて、操られるなんて・・辛かったろうな、苦しかったろうな・・。そう思って、腕の中でうたた寝しているキサをぎゅっと抱きしめる。
ずっと大好きだと、そばにいたいと、約束して欲しいと思っていたのに、永遠に離れなければいけない現実に、心も体も引き裂かれそうだった・・。
けれど、今はもう違う。
・・一緒にいたいと、僕を真っ直ぐに見て言ってくれたキサ。
心が痺れるくらいに、嬉しくて・・、きつく抱きしめて、キスを贈った。あんなに嬉しいと思った事はなかった。
成人のお祝いが終わった頃を見計らって一緒に抜け出して、花火を見て・・。キサは一気に緊張が解けたのか、熱を出してしまって・・、慌てて部屋で看病した。
ようやく治ったキサを腕の中にすっぽりと包み込んで、寝息を立て始めたキサの頬を優しく撫でる。一緒にいられる喜びを噛み締めて・・、昔、抱っこをされていた体をそっとベッドに下ろして、横に寝転ぶ。
熱が下がって、起きた時のキサを顔を思い出す。
「あれ??なんで??あれ??」
って、混乱してて・・
思い出せるように説明して、キサはようやく安心したのか、「夢じゃなかった・・」って呟くから、ギュって抱きしめたら嬉しそうに笑ってくれて・・、胸がものすごく痛くなった。
嬉しい時も、痛いなんて聞いてない。
キサの笑顔は胸をぎゅうぎゅうと締め付けてきて・・、愛おしすぎて困る。
僕だけの異世界の乙女・・。
だけど、そんな異世界の乙女についてはまだまだ謎が多いらしい。
スメラタさんがお祝いの後、遊びに来てくれたけど、スメラタさんの国にあった古文書には、どうやらまだ知られてない事が沢山書かれていたらしく・・。スメラタさん自身が知らない事も多くあるようなので、分かり次第説明してくれる事になった。
「何せ寿命が長い我々だ。時間はあるし、よく調べておく。その間しっかりキサを守れよ」
そういって笑って、頭を撫でられた。
・・僕、もう大きい大人なんだけどな。
そんな訳で、無事にキサは僕の神殿で暮らす事になった。
ベッドで隣で静かに寝ているキサを見て、心配事が頭に思い浮かぶ。
・・幻獣とそばにいるって事は、「結婚」を宣言した事になるんだけど・・、これ、いつ言うべきだろう。ベッドでキサの寝顔を見て、ちょっと悩む。
好きとは言ってくれたけど・・
恥ずかしがり屋のキサが、公衆の面前で結婚宣言をしてしまった事を知ったら・・、結婚する気はないと言ったら・・、多分僕はもう生きていけないと思う。
「・・・ヴィオ・・?」
キサがそっと目を開けて、僕を見る。
あ、可愛いな。
笑顔で、キサを見つめると・・、キサは自分が寝ていた事に気付く。
「・・あれ?寝ちゃいました・・?」
「うん、まだ熱が下がったばかりだし、もう休んだ方がいいよ」
「・・すみません、明日は一緒に散歩しましょうね・・」
「うん!キサ大好き」
頬にキスを落とすと、ちょっと照れ臭そうにするキサ。
明日こそ、ちゃんと結婚した事を説明した方がいいな。だって、こんなに可愛くて、大好きなキサを誰かに取られてしまったら?そんな事を考えただけでも嫌だ。
ぎゅっとキサの体を抱きしめて、明日・・いい返事を貰えたらいいな・・。そう願って、ゆっくり目を瞑ったキサと一緒に眠る。・・ねぇ、今日も明日もずっと大好きだよ。




