幻獣様のお世話係、解任される。15
ベールを被って、静かに礼拝堂へ進むと・・礼拝堂に座っている人から、歓声が上がる。
小さいヴィオと初めて礼拝堂へ入った時は緊張していて・・
しっかり前を見ているヴィオに感心して、
二回目の時は、嬉しそうに手を繋いでいたヴィオがいて、
その後、頬にキスされて・・、
三回目の時は、ヴィオが舞を舞って・・白いオミの花を贈ってくれて泣いたっけな・・。
そうして、最後の今・・。
光が窓から差し込んで、光に照らされて・・
綺麗な衣装に身を包んで、嬉しそうに微笑んでいるヴィオを見て・・胸がいっぱいになる。
そばにいきたいのに、あそこへ行ったら・・
もう二度とそばにはいられない。
そう思うと足が重くなるけれど・・、とにかくヴィオの顔を、姿を、全部目に焼き付けておこうと・・ずっと見つめた。
マルクさんにそっと促されて、ヴィオの足元に静かにしゃがむと・・
色々言いたかった事も、何もかも吹き飛んでしまって・・
ただ泣かないように、ぐっと堪える。
「それでは口付けを・・」
マルクさんの低い声が、心の何処かで言わないで欲しいと叫んでいる。
そっとヴィオが私のベールを手に取って、ゆっくりと上げていく。
急に照れ臭くなって、でも、顔を見ていたいし・・。
目がウロウロと泳ぎそうになる。
「・・キサ」
小さく低い声が私を呼ぶ。
離れたくない。
ずっとそばにいたい。
叫びたい気持ちを抑えて、ヴィオの顔をそっと見上げる。
笑え。
私は、笑ってヴィオを見送るんだ。
必死に泣かないように、ヴィオを見つめると・・
嬉しそうに笑うのに、泣きそうな顔になっているヴィオと目が合う。
その顔を見ただけで・・胸が詰まって、
ぼろっと涙が一粒流れた。
それでも頑張って、笑顔でヴィオを見ると・・小さな声で
「大好き・・」
そう囁くので、私も小さい声で
「大好きです」
そう言うと、ヴィオは静かに笑ってそっと唇を重ねる。
と、瞬間に礼拝堂は歓喜と歓声に包まれて・・遠くで花火が上がった音が聞こえた。
静かにヴィオが顔を離す姿に、なんとか笑って・・私はヴィオとゆっくり立ち上がる。
マルクさんは、涙声で・・
「これにて、シルヴィオ様の成人の儀式が無事に行われ、パルマの国はこれより幻獣シルヴィオ様の元、平和が約束されたことを宣言する!!」
そう高らかに言われ・・私はヴィオを見つめる。
さようなら・・を言わなければ・・、そう思って口を開こうとすると、スメラタさんがすっと立ち上がり・・マルクさんの方へ進み出る。
「ワズの国を代表して、幻獣スメラタも祝福する。そしてもう一つ祝福がある」
ざわりと周囲が声を上げる。
祝福??もう一つあるの??私とヴィオが顔を見合わせると・・スメラタさんが一枚の紙を出す。
「知っての通り、ロズとダズの国が先日、禁忌を犯した。これは以前、古文書によると、トーラの国で「異世界の乙女」に対して呪いを使った時と同じだ。呪いにより、悪の心を植え付けられた乙女に対し、神は「異世界の乙女」の本来持つ力を封印され、以来・・乙女は幻獣の側に一年のみしかいられない体にされた」
そうなの!?
確かターシェさんは、悪の心を持った異世界の乙女によって、神様に一年しかそばにいられない体にされた・・って言ってたけど・・、植え付けられたの!?それが原因で封印をされていた??私は混乱しつつもスメラタさんの話を聞く。
「本来、異世界の乙女は幻獣と共にあり、それを支える役目があった・・。そして古文書によると、乙女の封印を解く方法がある。それがこれだ・・」
そう言って、スメラタさんが持っていた紙を広げる。
私もヴィオもその紙を見ると・・ニヤッと笑ってスメラタさんが私達を見る。
「すべての幻獣による許可。その名前だ」
紙を見ると・・4つ・・名前が書かれている・・。
全員の名前だ。
「キサ、お前はどうしたい?」
スメラタさんが私をじっと見て・・
信じられないという顔で私を見るヴィオを見る・・。
本当に・・・?
一緒に居られるの?
皆、それを許してくれたの・・?
嬉しいのと、信じられないのと・・胸が一杯になる。
私は、隣にいるヴィオの顔を真っ直ぐに見て・・
「・・一緒に、いたいです!」
そう言うと、スメラタさんが嬉しそうに笑ったかと思うと、紙は勢いよく光り私の胸の中に吸い込まれるように入ったかと思うと、胸の中の奥深くが・・温かくて・・優しい気持ちなった。
そうして、私を中心に周囲も光に包まれたと思うと・・静かに消えて・・辺りは静寂に包まれた・・。
スメラタさんが、私とヴィオを見る。
「これで、ずっと一緒だ。異世界の乙女と幻獣・・そしてパルマにずっと祝福があるように・・」
そう言うと・・辺りは紙吹雪と、花吹雪に包まれ・・、今までで一番大きな歓声がドッと湧き、その瞬間ヴィオに力一杯抱きしめられたかと思うと、目が回りそうなくらい熱いキスをされた。




