幻獣様のお世話係、解任される。9
いきなり現れたターシェさん・・。
それ以降、スメラタさんの神殿にひょこっと顔を出すようになった。
・・い、いいのでしょうか・・、守りの月でないのに。
スメラタさんは、もう無の境地でターシェさんを見ていますが・・。
まぁ、いいことにしよう・・。
今日は、中庭の植物に水を上げていると・・、ターシェさんがまたひょっこりやってきて、オミの花をみる。
「オミの花、綺麗だな〜・」
「あ、ターシェさんも知っているんですね」
「まぁ、好きな花だし・・」
「そうなんですか!私もこのお花好きです」
私が笑ってそう言うと、ターシェさんは小さく笑う。
「僕も、キサみたいにそうやって素直に言ったら、何か変わるのかなぁ・・」
「・・素直になりたい人がいるんですか?」
私がそう聞くと、ちょっと照れ臭そうに笑う。
「まぁね〜、でも、まだ言わない・・」
・・可愛い。
なんというか、すごく可愛い。
レオルさんや、ルル君とはまた違った可愛さに、思わずニマニマとしてしまう。
ターシェさんは、あれ以来「キサ」と呼んでは、何かと構ってくれて・・、時々スメラタさんの神殿で一人ぼっちの私の気を紛らわせてくれるかのように、ポツポツと話してくれる。
ルル君は、思いっきり警戒してるけどね・・。
と、その噂のルル君が慌ててこちらへ駆けてくる。
「ターシェ!!!大変だ!!!」
「・・おい、僕は仮にも幻獣様だぞ。様を付けろ」
「うるさい!!今はそんな場合じゃない!!緊急招集だ!!スメラタ様の部屋へ来い!!」
ルル君の慌てように・・、ターシェさんも私も顔を見合わせる。
ターシェさんが私の手を握って、「キサも来い!」というので・・、一緒にスメラタさんの部屋へ転移したのか、あっという間に移動していた。
部屋には、スメラタさんにアイムさん、レオルさんもいる・・!!
え、ぜ、全員ここにいていいの!?
思わず目を見開くと、スメラタさんが私を見て複雑そうな顔をする。
その途端・・ドキドキと嫌な予感がして、胸がざわめく。
「・・ヴィオに、何かあったんですか?」
どうか・・杞憂でありますように。
そう願って、スメラタさんの顔をじっと見ると・・、静かに頷く。
「ロズとダズの国が、結託して禁忌の魔術に手を出した。シルヴィオを意のままに操ろうとして、呪いを掛けたが・・、今、昏睡状態だそうだ・・」
昏睡・・?
足元がグラグラする。
ターシェさんが、それを聞いて私の体を支えつつ・・
「魔法使いがいるだろ?ベルナはどうした!!」
「ベルナがいち早く気付いたんだ・・。もちろん、今も魔力を流して呼び戻そうとしている」
スメラタさんの言葉にホッとするけれど・・、ここに幻獣達が集まっているということは・・予断を許さない状況な事には変わらないんだろう。
レオルさんは、スメラタさんを見て・・
「禁忌の魔術の特定は?」
「まだだ・・。今、うちの魔法使い達に調べてもらっている」
「魔力を流し続けるのであれば、魔法使いを送って交代で番をさせるしかないな」
「各国から、そんな訳で魔法使いを送ってくれ。すぐにだ!」
スメラタさんがそういうと、皆一斉に頷き、転移していったのか・・あっという間に皆消えていく。
ターシェさんが私の肩をポンと叩いて・・
「すぐ戻ってくるよ。あの犬」
ニヤッと笑って、消えてしまった・・。
・・ターシェさんなりに励ましてくれたらしい。こんな時なのに、嬉しくて・・、胸の辺りをぎゅっと握った。
スメラタさんは私を見て、頭を撫でると・・
「ターシェの言う通り、すぐに戻ってくるし、俺達も守るから・・安心してくれ」
「・・はい、お願いします」
・・こんな時、何もできない自分が歯がゆい。自分に出来る事なんて・・祈るくらいしかない。なんとかして戻ってきて欲しい。窓の外を見て・・、ヴィオの名前を小さく呟いた。




