幻獣様のお世話係、解任される。8
白い長い髪をふわふわ揺らしつつ、あっという間にプリンを間食したターシェさん。
お茶を一口飲んでから、
「やっぱ甘いの無理」
と言うから、ルル君がギロっと睨んで、
「このガキンチョ!!いつも一言多いんだよ!!!」
「る、ルル君落ち着いて‥」
「うっさいなー、年下のくせに生意気なんだよ!」
あ、そうなんだ。
ターシェさんの方が年上なんだ‥と、新たに知る。
怒るルル君を宥めて、頭を撫でてあげると途端に静かになって、嬉しそうに頭を撫でさせてくれるルル君。うう、今日も可愛い!!ターシェさんは、そんなルル君を見て呆れたように見ている。
レオルさんがお茶を優雅に飲みつつ、ターシェさんを見て、
「それで?今日は何かあったのか?」
「べっつに〜!ただ、皆が大好きって言う「異世界の乙女」を見に来たくて」
「‥わ、私ですか???」
皆が大好きって‥。
それはヴィオだけじゃないの??
ターシェさんは私を上から下まで、じぃっと見て、
「異世界の乙女は、うちの国では「悪魔の使い」って呼ばれてるのに角とかないんだな!」
「あ、悪魔の使い!?」
ギョッとして、ターシェさんを見ると、向かいに座ったレオルさんがため息をつきつつ説明してくれた。
「大昔、ターシェの住む国は「異世界の乙女」が悪の心を持っていて、小さい頃から自分のいう事だけを聞くように育てて、一時期国を混乱させたらしい。それ以来、この世界に我々を寄越す神が、「異世界の乙女」は一年で強制的に離れるようにした‥と、いう話が伝承として伝わっているんだ」
だから私の命がヴィオのそばにいればいるほど危ないのか!
確かに‥あんな小さくて心の柔らかい子供を洗脳するなんて簡単だろうけど。そんな事をする人がいたのか‥、そう思うと心が痛む。
ターシェさんは、「ま、それ以来、僕の所はほとんど「男性」が来るようになったんだけどね」と、話してて‥。そりゃ、そうなるよね‥ってちょっと納得した。
神様にそう決められて、ここへ来たヴィオと私。
‥神様の話とかは、私は知らなかったけど、最初に聞いていれば、別れも悲しくなかったのかな‥。白い花のピンにそっと触れて、ヴィオを思い出す。
ターシェさんは私をまじまじと見て、
「異世界の乙女は、シルヴィオが好きなのか?」
「え‥」
思わず顔が赤くなる。
だ、だって、最近やっと好きだった事を認めたわけで‥。
でも、もう成人のお祝いを終えたら会えないわけで。あ、ダメだ‥、それを考えると一気に気分が落ち込む。
ターシェさんは、赤くなったり、暗くなったりする私の顔を面白そうに見つめて、
「シルヴィオが異世界の乙女を好きって言ってたけど、どうせもう一緒にいられないんだから、別の奴と結婚でもすれば?」
「っき〜〜〜!!こんのガキンチョ!!何を言い出す!!」
「る、ルル君落ち着いて!!」
ターシェさんの言葉を聞いて、ルル君が怒りだし、レオルさんは大きなため息をついて‥眉間のシワを深くする。
「け、結婚はまだ到底できません‥。というか、しないと思います」
「なんで??」
「‥ヴィオが好きだから」
初めて‥
初めてヴィオを好きだと周囲の人に言った途端に、また泣きそうになった。
いや!これだけお世話になっていて泣いてはダメ!
困らせちゃうし、みんな優しいから悲しませちゃう!!堪えるんだ私!
小さく息を吸ってから、顔を上げてターシェさんを見つめて、なんとか引きつった顔をしつつも笑いかけた。
途端、ターシェさんは言葉に詰まったように私を見て‥、
突然私の頭を両手でぐしゃぐしゃに撫でた。え?えええ???
「‥ま、その気持ちは、僕も分かるけどね」
そ、そうなの?
ターシェさんも誰か好きなの??
ぽかんとして顔を見上げると、面白そうに私を見て笑って‥、
「異世界の乙女は可愛いんだな!!」
と言うと、ルル君が横で「当たり前でしょう!!」と胸を張った。
な、なぜそこでルル君が?向かいの席に座っているレオルさんは、優しく笑って頷くので‥ちょっと照れてしまった。




