幻獣様のお世話係、解任される。5
落ち着いた雰囲気のレオルさんは、実はお菓子作りが大好きらしい。
何その可愛いギャップ‥。
今までの幻獣達はあまりお菓子が好きでなかったらしく、作っても食べて貰えないので寂しかったらしい。
それで以前、スメラタさんが持ってきてくれたお土産にお菓子が多く入っていたのか‥と、ちょっと納得した。あとケーキは本当に美味しかった!!
「ヴィオとパンケーキを作った時は、それは喜んでいましたよ」
「そうか!!それは良かった!手紙でもお礼は書いてくれていたが、やはり遠慮して書いているかもと思って‥」
色々気にしてくれる人なんだなぁ‥。
なんだかすごくほっこりと和む。
思わず二人でふふっと微笑みあってしまう。うん、獅子の幻獣様はすごく可愛い感じの人だな。
「スメラタには連絡しておいたので、そろそろ送ろう」
「何から何までありがとうございます」
「いや‥、できればまたケーキを食べにぜひ来てくれ!」
‥よっぽど嬉しかったらしい。
もちろんケーキは美味しかったし、料理も得意だというので二つ返事で頷いた。美味しいものは私も好きです!
せっかくなので、レシピの本も貸してくれるというので書庫まで一緒に歩いていく。
神殿というより、やはり広いお城みたいだな‥。
石の廊下は薄い灰色で、コツコツと足音がする。
書庫へ着いた途端に、神官さんだろうか‥パルマの神殿とは違ってローブのような服装を着た男性が慌てた様子でこちらへ駆け寄ってくる。
「あ、アイム様がこちらへいらして‥!!」
「‥あいつはまた事前連絡もしないで‥・」
どこへ行っても、人を慌てさせるアイムさん。ある意味すごいなぁ。
レオルさんは、私をすまなさそうに見て、
「書庫の中ですまないが待っていてもらえるか?本が色々あるから、興味がある本は貸すので好きに選んでくれ。すぐに戻る」
「あ、はい・・」
そう頷くと、レオルさんは神官さんとすぐに何処かへ行ってしまった。
私は書庫へ入って、本を見回す。
すごい!!
レシピ本がいっぱいある〜〜!!
もちろん、色々な本が所狭しと置いてあるけれど‥、こんなにお菓子から、おかずまであるなんてすごいなぁ。料理コーナーのような本棚を見て、思わず笑ってしまう。
いくつか手に取って、本を選ぶ。今度スメラタさんの所で作らせて貰うおう。
本を選び終えて、書庫の扉から顔を出す。
‥まだ来ないなぁ。
そう思っていると、石の廊下の向こうでカツカツと歩く音が聞こえる。
あ、誰か来てくれたのかな?
書庫から出て、扉を静かに閉めて廊下へ出ると、向こうに人影が見えて声を掛けようとして、動きが止まった。
ヴィオがいる。
え、なんで‥???
突然のことに驚いて体が固まってしまった私を、ヴィオも驚いた顔で見つめ足を止めた。
‥どれくらい近付いてはいけないのかも分からないし‥。会えたら、話したら、泣いてしまいそうで、でも駆け寄りたい気持ちで胸が一杯になって‥、遠くにいるヴィオを見て私は立ち尽くしてしまった‥。
肩で息をしているから、まだ体調が悪いのかな‥。
言葉がうまく出てこなくて、でも見つめてしまって‥、そんな私にヴィオは困惑しているのかじっと私を見つめている。
名前を呼びたいのに、呼んだら、きっと泣いてしまう。
手紙で色々書いたけど、言葉には何一つならなくて‥ぎゅっと口を引き結ぶ。
「‥‥キサ」
ヴィオの声が、石の廊下に響いて聞こえて、
その途端に、涙がぼろっと出てくる。
泣かないようにって思ったのに‥、泣いたらきっと心配するのに。
涙を拭くけど、止まる気配がなくて‥。
一生懸命、気付かないふりをしていた‥。
ヴィオを好きな気持ちを目の前に突きつけられて、ああ、とうとう見てしまった‥と思った。好きになったら離れるのが辛いと思って必死に見ないようにしていたのに‥。
私とヴィオを隔てる距離はあまりに大きくて‥、その距離を見たくなくて、
書庫へ走って戻り‥静かに泣いた。




