幻獣様のお世話係、解任される。
ほかほかとする・・。
体がふんわりと柔らかいもので包まれている感じがして・・、そっと目を開ける。
「・・あれ?」
いつもの天蓋ベッドじゃない?
でも、天井には豪華な絵が描かれていて・・、竜が空を飛んでいる絵が見える。周囲を寝たまま見ると、大きなベッドに寝かされている事に気付く・・。
ゆっくり体を起こすと、小さな足音が聞こえる。
紺色の髪に、紺色の瞳をして、耳が先っぽが尖っている小さな男の子・・10歳くらいかな??ニコニコして私を見ると、
「あ、起きた〜!スメラタ様ぁ〜〜!起きましたぁ〜!!」
スメラタさん?!!
私は、驚いて男の子が呼ぶほうを見ると、大きな茶色の重厚な木の扉からスメラタさんが顔を出した。
「おお、起きたか・・」
「あの、ここは!?ヴィ、ヴィオは?!!」
「ヴィオは、パルマの神殿にいる。お前さんと離れていても無事だから安心しろ」
そ、そうなの???なんで??
私が不思議そうな顔をしていると、小さな男の子がスメラタさんの濃紺のローブを引っ張って・・
「スメラタ様、なんでここにいるかを説明してないです〜」
「・・おお、そうだったな・・」
・・なるほど、いいコンビっぽい。
スメラタさんは、ベッドのそばに置いてある椅子に座ると、私を見て・・
「ロズの国が、ニケの使う剣に呪いを仕込んでいてな・・、その呪いにお前が掛かった。幸い、ヴィオがその呪いを解呪したんだが・・、口づけをする必要があった」
「・・え・・」
それって・・
「異世界の力」を渡してしまうことになるよね?
そうしたら、私はヴィオの側にいられない・・って事だよね?だから・・、私はスメラタさんのところにいるの???
「シルヴィオの体は、完全に「大人」になったので、キサが側にいる必要はなくなったが・・、四ヶ月も早く大人になってしまうと体が成長に耐えられないから、魔力で少しずつ成長するようにしてきた」
そうか・・。
私はもう完全に側にいなくてもいい状態になったのか・・。
「・・もう、私はヴィオの側にいられない・・って事ですよね」
「あと四ヶ月後の成人の祝いには、国外の客に譲渡をしたフリをする必要があるので、儀式には出てもらう必要がある。その時だけ、俺の魔力でキサの体を包んで守るが、それ以降は・・」
・・もう、いられないのか。
急展開に頭が追いつかない・・。ヴィオの顔が思い浮かぶ。
「・・・ヴィオは・・」
泣いてないかな・・。
急に事実を知って・・、ショックを受けてるんじゃないか・・
そう思うと、言葉が出てこない。
スメラタさんは、私を見て小さく笑うと、
「泣くのを我慢してた」
その言葉に、ぼろっと涙が出てきた。
・・ヴィオは我慢してたのに・・、私が泣いてしまって・・、なんとか涙を止めたいのに次から次へと出てきてしまう。小さな男の子がハンカチを渡してくれて、お礼を言って受け取るとなんとか涙を拭く。
「・・辛かったな」
スメラタさんが頭を優しく撫でるけど・・
やめてくれ〜〜、もう涙が止まらなくなる。
「・・もうちょっと側にいたかったんですけど・・」
「そうだな」
「でも、側にいるのも・・いずれ別れると思うと辛くて・・」
「そうだろうな」
「・・どっちにしても、辛いですね・・」
「そうだな・・」
なんかもうグズグズと泣いてしまって・・、ずっと我慢していたことを思わずぶちまけてしまった・・。小さな男の子が、「スメラタ様が泣かした〜〜」っていうけど、ち、違うの〜〜。今は泣いてるから言えないけど、あとでちゃんと伝えよう・・。
「・・ここにいれば、ロズも流石に手が出せないから、キサは成人の祝いまでゆっくり過ごせ。別に、その後もここに住んで構わない」
やっと泣くのが落ち着くと、スメラタさんは小さく微笑んでそう言ってくれて・・、またうっかり泣きそうになった。幻獣様って、優しいなぁ・・。
うちの甘えん坊な優しいヴィオは大丈夫かな・・、そう思って窓の外を見ると・・綺麗な青空と見た事のない山の風景が広がっていて・・、もう帰れない事にまた胸が痛んだ。




