幻獣の動揺。
ヴィオ視点です。
急に背筋がぞわりとした。
この感覚は、異世界の乙女と感覚が共有されている。・・と、いう事は、キサに何かあった?!急いで、ベンチに座っているキサを見ると・・足元に真っ黒い何かがいて・・キサが倒れる姿が見えた。
「「「キサ!!!!」」」
思わず叫んで、キサの方へ駆け寄ると、ニケも慌てたようにやってきた。
足元にいた黒いものは呪いだった。
キサに呪いをかけると、あっという間に消えてしまった。
けれど、足元から黒い筋のようなものが、クモの巣のようにドンドン体を這い上がっていく。ニケはギョッとして、キサの体を見て・・
「な、なんだこれ・・」
「呪いだ!ベルナをすぐ呼んで来てくれ!!」
「わかった!!」
キサの体を抱えている指が震える。
この呪いは、確か人を確実に殺す呪いだ・・。
先日、ベルナに聞いてはいたが・・。
自分でなく、キサを呪うなんて・・、なんで自分じゃないんだ!!自分を殺せばいいじゃないか!!ぎゅっとキサの体を抱きかかえるけれど・・、ドンドン顔が青ざめていく。
抱きかかえている体の体温が下がっていくのが分かる。
この呪いの怖いのは、効き目が恐ろしく早い所だ。
呪いを解く方法はあるが・・
キサの顔を、唇を、見る。
マルクには、口づけはしないようにと言われていたが・・一瞬迷ったけれど、
キサの唇に、自分の唇をそっと重ねる。
自分の魔力を唇から直接流し込んで、呪いを解いていく。
早く・・
早くしないと・・
魔力を流し込みつつ、呪いを解いていく。
間に合わないか?!
焦る気持ちをなんとか押さえつけて、魔力を流していると・・キサの異世界の力が、自分に流れ込んでくる。
自分の魔力と、キサの異世界の力が大きな渦のようになって、自分の体とキサの体の中をお互いに流れ込んできて・・、ああ、これが異世界の力なんだ・・と感じ取った。
すると、呪いが一気に消えたのが分かって、
そっと唇を離す。
そこへ、慌ててベルナとニケ、マルクが駆け寄ってくる。
ベルナが俺のそばへしゃがんで、キサを見る。
「シルヴィオ様!!キサ様は!!?」
「・・今、呪いは解いた・・」
それだけで、何をしたかを察したのか・・顔をさっと青ざめさせ、マルクを見上げる。
「・・何か、まずいのか?」
呪いを解いたことも、キスした事も・・。
そう思っていると、キサの指がちょっと動いて、ゆっくり目を開けた・・
「キサ!大丈夫か?」
「・・ヴィオ・・・・?」
俺の顔を、ちょっと不思議そうに見上げている。
・・良かった・・、無事で良かった!
ホッと息を吐いて、キサをもう一度しっかり抱きかかえようとすると、キサが、急に胸を抑えて苦しそうな顔になる。
え!?呪いは解いたのに??!
「シルヴィオ様、キサ様をお離し下さい!」
ベルナの強い声に驚いて顔を上げる。
「な、なんで・・」
驚いた俺の腕から、ベルナがさっとキサを抱きかかえる。マルクがキサとベルナの前に立ち・・沈痛な面持ちで俺に話す。
「・・キサ様の異世界の力は、一旦シルヴィオ様に受け継がれると、シルヴィオ様の魔力の強さで、二度とそばにいられないお体になるのです・・」
・・何?
なんて・・言った?
あまりの衝撃に頭が追いつかない。
二度とそばにいられない・・???
「何があった?」
後ろで声がして振り返ると、スメラタさんがこちらへやってきたのか・・突然現れた。
驚いて声が出ない俺を、すぐに見ると・・
手から光を発して、俺の体をコーティングするように魔力で包み・・
「・・一旦、シルヴィオの体の成長を止めた・・。「契約の口づけ」をしたのだな・・」
スメラタさんが、俺と・・そしてまた真っ青な顔をしたキサを見た。
・・キサと二度とそばにいられないショックが大きくて・・、これからどうなるのか、どうしたらいいのかも・・何もわからず、俺はスメラタさんとキサの顔を交互に見て、呆然とした・・。




