幻獣様のお世話係は奔走する。13
あれからスメラタさんの本を一緒に開いては、
色々な所へ出かけた気分をヴィオと一緒に楽しむようになった。
昨日は、滝の見える場所で・・
本物の水しぶきを感じて、二人で目を丸くして見ていて・・
「いつかキサと本物の滝を見たいなぁ!!」
「う、う〜ん・・、今、見てますんで・・、まずこっちを堪能しましょうか」
「え〜??・・、まぁ、そうだね・・」
何とも返答しずらかった・・。
うう、やっぱりちゃんと早めに言わなくちゃ・・。そう思うのに、ヴィオの笑顔を見ると、どうしても先送りしてしまう自分がいる・・。
今日こそは言おうと思っていると、剣の練習を終えたヴィオが笑顔で部屋へ戻ってくる。
体はすっかり元に戻ったけれど・・、
それでも私の背をすっかり追い越して、10センチは確実に伸びているけど、耳と尻尾は健在で、ピクピクと動かして機嫌良さそうに動いている。
「キサ!練習終わった!!出かけよう!!」
そばにきた瞬間に抱きしめられて、私は大いに慌てる。
「わ、分かりましたから!!いきなりハグしない!!」
「何で〜?いつもしてたでしょ?」
「し、してましたけど・・、もう大きいんですよ?!」
「大きくなると、ハグもしちゃダメなの?キサ・・」
キュ〜ンって、子犬のような目をしないでくれ〜〜!!!
・・こういう目をされるから、ますます話ずらくなっちゃうんだよね・・。その目に弱いのを分かってて、やってくるヴィオも大概だとは思うけど・・。
私は、顔を赤くしながらヴィオを見上げると、
ヴィオは私の視線に気が付いて、目元を少し赤くする。・・自分でやっておいて、照れるとはこれいかに。
「・・キサ、頬にキスしたい・・」
「ダメです!!」
「何で?!前はいっぱいさせてくれたのに!!」
「て、適切な距離感は、大きくなったら必要です!」
「ヤダ〜!!ヤダヤダヤダ!!」
・・ヤダヤダ・・懐かしい。
でも、ちゃんと我慢しているのは偉いぞ。私が頭をそっと撫でると、恨めしげに私をヴィオが見て・・
「・・キサ、頭撫でるだけじゃ足りない・・」
「・・・・・・うう・・、額なら・・・・?」
あっさりと負けて妥協すると、パッと顔を輝かせて額にキスしてくるヴィオ。ああ・・ダメだ、また負けてる。別れを自分で辛くさせている自分に腹が立つ・・。
思わずヴィオの胸に顔を隠すように、擦り付けると、
ヴィオの体が途端に固まる。
「・・・き、キサ・・、あの・・、」
「・・どうしました?」
ヴィオの顔が真っ赤だけど・・、暑かったのかな?
そっと離れようとすると、慌ててまた抱きしめられる。・・こらこら、本を開いて出かけるんじゃなかったのか?
ヴィオは、私の体をギュウッと抱きしめつつ・・
「・・もう無理・・、本当、無理・・」
って、ブツブツ言うけど・・一体何が無理なんだ。
私はちょっと苦しいくらいだ。
「・・ヴィオ、お出かけ・・するんでしょう?」
そう言うと、ヴィオは小さく頷いてそっと体を離してくれた。
よ、良かった・・。
ちょっとドキドキしてたの、バレてないといいな・・。
いつものテーブルに、スメラタさんの本が置いてあって・・、二人で本の側へ行って、昨日決めていた花の舞う季節のページをめくろうとすると・・
「「お〜〜〜い!!!お兄ちゃんが遊びにきたぞ〜〜〜!!!」」
部屋の扉が、思いっきり勢いよく開かれて、
笑顔全開のアイムさんが立っている!??
私とヴィオが目を丸くしていると、後ろでベルナさんが苦い顔をしてアイムさんの後ろに立っている。嗚呼・・、今回も何も連絡せずに来たんだな・・と、その顔で悟った・・。
アイムさんは、ヴィオの持っている本を見て、
「お?なんだ??スメラタの本じゃないか?どこか行く所だったのか?」
「あ、まぁ・・」
「「じゃあ、俺も行く!!!」」
この圧に勝てる人がいるんだろうか・・。いや、いない。ヴィオの尻尾がちょっとへにゃっと垂れて・・、気付かれないように、小さく笑った。




