幻獣様のお世話係は奔走する。12
スメラタさんの言う通り、ヴィオの体はそれから数日大きくなったり、小さくなったりを繰り返した。
小さい時のヴィオは、中身は大人に近いと分かっていても
可愛くて・・、つい甘えてくると抱っこしてしまう。
「キサ、大好き!!」
「ヴィオ〜〜〜!!」
小さいヴィオの可愛さに勝てなかった・・。
全戦全敗である。
・・く、可愛い。
ただし大きくなると別である。
今日は少しずつ戻っているためか、高校生くらいのヴィオは、現在・・私を絶賛ベッドの上で壁ドン中である。もうすでに背水の陣である。
「キサ、大好き!」
「あ、はい・・、えと、どうも?」
「もう!!なんで大きくなると、そんな素っ気なくなるの!?」
「いや、だって大きい姿はまだ違和感が大きいし・・、声も違うし、体も大きいし・・」
もうしどろもどろである・・。
だめだ、こっちもある意味全戦全敗だ・・。
意識をしないようにすればするほど、意識してしまう自分がいる・・。別れがすぐそこで待っているというのに・・。
大人としては、別れが辛くなる前に・・明確に線を引かなければいけない時期なのかもしれない。自分にも、ヴィオにも・・。
意を決して、ヴィオを見上げると、
ヴィオは私の顔を見て・・ちょっと目元を赤く染める。うん・・、なんで赤くなる??不思議に思いつつ、
「ヴィオ・・あのね・・」
ヴィオに切り出そうとした瞬間、ドアをノックする音に二人で驚く。ヴィオは、私から離れてドアの方へ声を掛けると、ベルナさんが何やら本を持って入ってきた。
「失礼します。スメラタ様からお届け物が・・」
「「お届け物???」」
二人で声を揃えて、ベルナさんの側へ行くと
一冊のかなり大きくて、分厚い本と手紙を渡された。
ヴィオは、早速手紙を読む。
ベルナさんは、ちょっと面白そうに持っている本を見ているけど・・、なんか面白い事が書いてあるのかな?私が、じっとその本を見ると・・、手紙を読み終えたヴィオが、目をキラキラさせて本を見る。
「キサ!この本で旅行できるんだって!!」
「旅行??」
私は、本をもう一度見ると・・ベルナさんがくすくすと笑って・・
「この本は、魔道具の一つなんです。色々絵が描いてありまして、部屋にいてもページを開くとその季節や風景のある場所へ行けるんです」
「あ〜、ベルナ・・言おうと思ったのに・・」
「すみません!つい・・珍しい魔道具にときめいてしまって・・」
いつもは穏やかなベルナさんが、そんなにワクワクするものなんだ!
私は、本の表紙をまじまじと見る。
色とりどりの自然の中に、星や海、川、湖の絵が描いてある。
確かに表紙を見ているだけで、ワクワクしちゃうな。
ヴィオを見ると、嬉しそうに笑って・・
「スメラタさんが、俺が成人するまで神殿の外へは出られないから・・、せめてこれで旅行している気分でも味わえって・・」
や、優しい!!
そうかぁ・・、ヴィオは神殿へ出られないんだもんね。
「キサは、どのページがいい?」
「えっと、どんな絵が描いてあるのか分からないんだけど・・」
「あ、そっか・・。じゃあ、まずはこれにしよっかな」
ヴィオがそう言ってページを捲ると、部屋の中が突然一面の夜空に変わる。
「え・・」
私とベルナさん、ヴィオは目を丸くする。
足元は水が張っていて、歩くたびに波紋が広がり・・、夜空の星たちを綺麗に反射させている。
空には天の川が見えて、時々流れ星が流れたりして・・
さっきまで昼間だったのに、真夜中で・・
しかもこの星空。
「・・すごい綺麗ですね・・」
「ね、こんな風景がキサと見られるなんて嬉しい」
そう言って、私の手を繋いで嬉しそうに微笑むヴィオ・・。
さっき線を引こうと思っていたのに・・、そんな顔をされたら何も言えなくなってしまうではないか。思わず口ごもってしまう・・。ベルナさんが星空を指差して・・「流星群ですよ」と言うので、空を見上げると・・、無数の星が落ちてくる。
・・こんな時間がずっと続けばいいのになぁ・・。
本の中の世界だとわかっているのに、流れ星に叶えて欲しいと思ってしまった。




