幻獣様のお世話係は奔走する。
お披露目会の際に、舞った舞は本当に素敵だった。
お花までプレゼントしてもらって・・、いやぁ・・、あれはちょっと格好良すぎるよ・・。
マルクさんと私は号泣しちゃうし、
ベルナさんとニケさんも微笑ましく見てるし、
泣かないとか・・無理だった。
お祝いの言葉をもらって、前回同様・・
バルコニーに出て、神殿へ入れなかった人達へ手を振ると・・、今までより大きくなっているヴィオの姿を見ることができた人達は、更に盛り上がっていた。
「・・前回は抱っこしていたのに・・不思議ですね」
「・・今、抱っこしてもいい?」
「それはダメです」
一緒に並んで、小さく手を振りつつそう話すと、ちょっと笑ってしまう。
・・前回は抱っこしてたのに、大きくなったね。
ヴィオはちょっと不満げに私を見て・・、
「今度、大人になった時のお祝いは絶対僕が抱っこする!」
「・・いや〜・・遠慮しておきます」
そろっと目を逸らした・・。
君が私を抱っこできる時は、お別れの時なんだよ・・。いつ、その事実をマルクさんは言うのかな・・。でも、それを知ったらすごくゴネて、嫌がりそうだなぁ。
私が下にいる人達を見ていると、
「キサ」
「はい?」
不意に呼ばれて、ヴィオの方を振り向くと・・チュッと口の側ギリギリにキスされて、わっと下からものすごい歓声が上がって・・私はびっくりしてヴィオを見る。
「ヴィ、ヴィオ!!!!ちゃ、ちゃんと聞いて下さい!!!」
「は〜い」
ニマッと笑って私を見るヴィオに顔が赤くなる・・。
もう・・、今、一瞬本当に驚いたんだけど。
マルクさんなんて、ちらっと見たけど・・ちょっと顔が青かったぞ・・。キスしてませんからね!!全然、してませんから!!すぐベルナさんが説明してくれて、ほっとした顔をしてた。
もう!後で怒ってやる!
ジトッとヴィオを見ると、いたずらが成功したみたいな顔で笑う。
・・もう少ししたら、反抗期とか来るのかな・・。
この甘えん坊な、いたずらっ子に。
小さくため息をついて、ヴィオがさっきから繋いでる手を仕返しとばかりに、ぎゅっと握ると嬉しそうに笑うだけだった・・。くっ!!私がやられてる・・。
そうして、無事に最後のお披露目会が終わった・・。
今度は幻獣様としてのお祝いだけだ。
部屋に戻って、二人で座ってお茶を飲む。
ようやく二人になれて、ヴィオは嬉しそうだ。まだ手足に鈴をつけたままなので、少し動いただけでシャラシャラと音がする。綺麗な音だよなぁ・・。私は手足の鈴は外してしまったので、お茶を飲みつつヴィオの鈴にちょっと触れる。
「・・・なあに?」
「鈴の音・・、綺麗だなって思って・・、舞も本当に素敵でした」
「ありがとう。キサの言葉が一番嬉しい」
「・・また、そういう事を・・」
うっかり照れちゃうから、本当にやめて欲しい。
心臓に悪いんだよ?
向かい合って座るヴィオは、陽の光を浴びて・・、どこか儚げで綺麗だ。
ずっとこんな時間が続けばいいのになぁ。
いつか終わりが来ちゃうのが寂しい。
「・・キサ、一つ約束して」
「約束?」
じっと私を見るヴィオの瞳に、思わずドキッとする。
「もし、何かあっても・・僕を嫌いにならないで」
真剣にそんな事を話すので、私は思い切り力が抜けた・・。そんなの万が一にもない。あり得ない。
「・・約束します。嫌いになんてならないですよ」
私が笑ってそういうと、ヴィオは嬉しそうなのに、泣きそうな顔になる。なんでそんな話をするんだろうと思ったけど・・、何か思う事があるのかな?
そっと立ち上がって、座っているヴィオの顔をそっと抱きしめた。
銀色の耳がピクッと動いていて可愛い。
手で頭を優しく撫でる。
「どこにいても、大事に思っていますよ」
離れてしまっても、会えなくなっても、私は君が大事だよ。
そんな気持ちがちゃんと伝わるように、頭を何度も優しく撫でると・・、「うん」ってヴィオは小さく応えて、私の体をそっと抱きしめ返してくれた。




