幻獣様は成長したい。6
テラスへ出たのも初めてだし、こんなに人がいるのも初めて知った。
お祝いのために、大勢の人達がテラスの下にいて私達が出てくると、ドッと大きな歓声が起きて、その声の大きさに空気がビリビリと揺れる。
す、すごい‥。
マルクさんが、神殿の外にいる人達に大きな声で、
「このお方こそ、パルマを守ってくださる幻獣様、シルヴィオ様だ!!」
そういうけど、ヴィオはまだ小さいので・・みんなに見えるかな?
私はヴィオに「今だけ抱っこさせて下さい」そう言ってから、ヴィオを抱っこしてマルクさんの側へ行くと、下で見ていた人達がヴィオが見えて、より一層大きな声を上げる。
「‥‥今度は、キサを抱っこする」
「いえ、皆さんが見たいのは、私でなくてヴィオ様ですからね?」
私は添え物であって、メインはあなたです。
お願いですから覚えて下さい‥。
不満そうにむくれるヴィオを笑って見ると、久々に抱っこしたなぁって思い出す。まだふっくらした頬を見ると、やっぱり可愛いなぁって思ってまじまじと見てしまう。
不意に緑の目が私を見て、
チュッと音を立てて、私の頬にキスをする。
え、な、何??!!
その瞬間、さっきよりも大きい歓声がドッと起きて、私はびっくりするわ、顔を赤くするわ、目が回りそうなんですけど!??マルクさんは、「おやおや‥」って言いながら微笑ましく見てるけど、そういう場合じゃない〜〜!!!
「ヴィ、ヴィオ‥?!!」
「だって、キサは僕のだし」
「い、今は、そうですけど‥、こういうのは了解なしでやってはいけません!」
パーソナルスペースっていうものがあってだね!??
赤い顔でヴィオをジトっと睨むと、ヴィオは嬉しそうに笑っている。
‥全く、この甘えん坊のいたずらっ子め!
もうそろそろ下ろそうかな‥そう思っていると、
体がゾクッとする。
え、何‥??
私の斜め後ろにいたベルナさんが、「下がって!!!」と大きい声で言った途端、空から光の矢がこちらへ飛んでくる!!
「危ない!!」
咄嗟にヴィオを庇った瞬間、腕に光の矢が掠った。
掠ったけど‥痛い!!!まるで焼かれたように腕が痛む!
「うぁ‥‥!!!」
「キサ!!!」
大きなどよめきが起きたけど、構わずヴィオを抱えてニケさんに言われた避難経路へ走って行く。
「キサ、血が出てる!!下ろして!!」
「ダメです!!今はダメ!!!」
「キサ様、奥へ!!ここは守ります!!」
ベルナさんと、マルクさんが大きなバリアのようなものをテラス一面に張り巡らせて、光の矢から私達を守ってくれている間に、有事があった際の部屋へ駆け込んでいく。
騎士さんが部屋の前に待機していてくれて、すぐに開けてくれたのでそこへ走って中へ入る。
ただの小さな窓が一つある部屋に、私はヴィオをそっと下ろすと
そのまま倒れ込んだ。
「キサ!!キサ、大丈夫?!腕‥、あ、腕が‥」
泣きそうな顔のヴィオの頭をそっと撫でる。
「‥す、すみません。久々の全力疾走と緊張から解放されて倒れちゃいましたけど、大丈夫ですよ」
「でも、腕が!血が出てる」
「怪我は治るから大丈夫ですよ。ヴィオは大丈夫ですか?」
「僕は平気、でもここが痛い‥」
え、どこ!??
ガバッと起き上がって、ヴィオがぎゅっと胸元を抑えているので、思わず血が付いてないか確認すると‥
「ここが痛い‥。キサが痛い思いをしていると思うと‥ここが痛い‥」
胸を押さえてボロボロ泣きだすヴィオを見て、ホッと息を吐いた‥。
そうして、ちょっと痛む腕を動かして座ると、ヴィオを抱っこして、ぎゅっと抱きしめた。
「私が怪我をして、心を痛めてくれたんですね。そこは心があるんですよ。辛い時、嬉しい時でも、時々痛くなったりするんです。暖かくなったりもしますよ?」
「そうなの?これ嫌だ‥苦しい」
「そうですね、こんな時は特にそう思いますけど、私のここは今、とても暖かいですよ」
不思議そうに私の胸を見るヴィオ。
だって、そんな風に心配して泣いてくれるんだもん・。そりゃ心はぽっかぽかですよ。もう一度ギュッとヴィオを抱きしめて、この小さい体を守れて良かった‥と、心底安心した。