幻獣様はいつでも格好良くいたい。6
お昼を食べつつヴィオに演劇の話を詳しくしていると、マルクさんがいそいそとやってきて、
「本日キサ様とターシェ様が行かれた演劇ですが、なんでもシルヴィオ様が騎士に憧れているという話を聞いて、いつもと違う演目になさったそうですよ」
「え?!ヴィオの騎士の話を知ってるんですか?」
「はい、どうもターシェ様からの情報らしくて‥」
えっと、それはいいのかな?
思わずヴィオを見上げると、ちょっと照れ臭そうに笑ったけれど、ベルナさんとニケさんは渋い顔をして、
「‥あとでターシェ様にはお説教ですね」
「あんまり幻獣の情報をホイホイ出したらダメだろ」
と、それぞれ同時に言うと、二人で顔を見合わせ頷き合っていた。
やっぱりそうなのか‥。流石に個人的なことはヴィオの立場上話ちゃうのはまずいかも?
マルクさんはちょっと眉を下げて、
「トーラの国の神殿からはすでに陳謝がありまして‥、まぁ今回はシルヴィオ様に喜んで頂きたいというお気持ちからの公演ですから大目に見て頂けると‥」
「うん、ぼ‥俺もそれでいいよ。それにしても騎士の劇かぁ‥。楽しそうだなぁ」
そっか、仕事ばかりでなかなか娯楽を楽しめないのはヴィオも同じだ。大人になるまでは神殿の中でしか過ごせなかったし、ようやく外へ行けるようになったけれど、基本的に守り月でない限りは国にいてもそこまで遠くは行けない。
改めて考えると、なかなか不便だよなぁ。
チラッとヴィオを見上げ、
「お土産はお昼のお祈りが終わってからにしますか?」
「うーん、その前に一緒に見たいな」
「じゃあお部屋に戻ったら渡しますね」
「うん!!!」
私もヴィオに楽しい気持ちになって欲しい。
いくら体は大人でも、まだ大人になって1年しか経ってないしね。
嬉しそうにヴィオは私の手を引いて部屋へ戻ると、いつものようにベッドに腰掛けて、お土産の入っている紙袋をワクワクした顔で見つめた。
うーん、こういう所はまだまだ子どもらしくて可愛いな。
そんなことを思いつつ小さく笑うと、ヴィオがハッとした顔をして私をじとっと見た。
「‥キサ、また可愛いなあーって顔してる」
「え?!」
なんでそうやってすぐわかっちゃうの??
私は慌てて、ヴィオの横に座って、
「ちゃんと大人だなぁって思ってますよ?」
「本当に?」
「はい。さっきも劇団の人を責める様子もなかったし‥」
「そう?本当に?‥なら、うん、まぁいいよ」
嬉しそうな顔を我慢するように、口をむにゅっと動かすヴィオに思わずまた可愛い‥って、ダメダメ。またバレる!
お土産の紙袋をヴィオに手渡すと、早速袋を開けたヴィオ。
中には黒騎士が愛馬である黒い馬に乗った木彫りの置物と、劇の元となった本。それと、お姫様が黒騎士に渡した剣のキーホルダーだ。
「わぁああ!!!格好いい!!!‥あ、えっと、うん、素敵だね!」
「ふふ、そうでしょう?この黒騎士の置物すごく良く出来てるなぁって。ヴィオに昔読み聞かせした騎士さんにも似てるなぁって思ったんです。剣はヴィオが好きだから、何か使っている物に付けてもいいし、飾ってもいいかなぁって」
満面の笑みのヴィオに嬉しくなって、私まで口角が上がってしまう。
ヴィオは私を見つめて、腕を大きく広げ、
「キサ!!大好‥、あ、えと、ありがとう!すごく嬉しい!!」
抱きしめる‥?
かと思ったら、広げた腕をそっと下ろして私の頭を優しく撫でた。
うん?
どうした?
いつもみたいに無邪気な感じじゃないけど‥。
でも嬉しそうな様子には変わりないし、午後もお仕事があるから抑えめな感じなのかな?そんな事を思いつつ、ヴィオは私の買ってきたお土産をどこに飾ろうかと相談してきたので、ベッドの横にある棚の上に飾るとそれはそれはいい笑顔だった。
うーん、やっぱり可愛い。