幻獣様はいつでも格好良くいたい。3
白い髪飾りをヴィオにつけて貰って、真っ赤な顔で食堂へ行ったでせいで、ベルナさんには生温かい視線を受けた‥。
うう、恥ずかしい‥。
でもターシェさんの推しの為!今日だけだから頑張るんだ。朝食を食べ終えるとヴィオは本日は苦手な幻獣教育をするそうだ。その他にも奥神殿を整えないといけないらしく、仕事が山ほどあるそうだ。本当は夫婦だから一緒にできたらいいんだけど、奥神殿はヴィオしか行けないからなぁ〜。
ターシェさんがそろそろ迎えに来る頃だからと、ベルナさんとヴィオと一緒に中庭へ歩いて行くけれど、今更だけど遊んでていいのかな‥私。
「ごめんね、ヴィオの仕事を手伝えればいいんだけど‥」
「ううん、僕ね仕事は結構楽しいんだ。ただ勉強だけは苦手だけど」
ちょっと小声で笑って教えてくれたヴィオ。
‥そういう優しいところが好きだなぁ。小さく笑って、
「明日は一緒にお勉強しますね」
「うん!一緒ならなんとか頑張れると思う」
「魔法と剣はいきいきとやってるのに‥」
「だって、そっちは楽しいし‥」
うーん、幻獣様は守られているからあんまり必要のないような気もするけれど‥。なんて思っていると、中庭から暖かい風がブワッと舞い上がり、ターシェさんが現れた。
「おはよー!!!キサ、じゃ行こうか!!!!」
「早い、早いです」
「だって楽しみで!!シルヴィオありがとうね!あ、これお土産〜。うちの神殿の神官長から!こっちは甘味だから冷やしておくといいよ。これは本なんだけど面白いからシルヴィオにあげる」
すごい‥。
圧がすごい‥。
もうワクワクした顔のターシェさんにその圧で押されてしまう。
ベルナさんが、ターシェさんを呆れたように見て「少し落ち着いて下さい。キサ様が驚いています」と言ってくれて、ようやく前のめりだったターシェさんが後ろにちょっと引いてくれたけれど、もうそわそわしているのは隠せないようだ。
ヴィオは眉を下げて笑って、
「ではキサをどうぞよろしくお願いします」
「うん!任せて!なんせ守り月だし、力も漲ってるからね。何かあっても吹っ飛ばすよ」
「「吹っ飛ばす‥」」
思わず私とヴィオの声が重なると、ベルナさんが眉間のシワを揉んだ。
「ええっと、じゃあ神殿から劇場へ向かいますか?」
「うん!転移でパッと行こう。街へはまだヴィオとそんなに出てないんでしょ?そっちはシルヴィオと楽しまないとね」
ターシェさんがニコニコ笑ってそう話すと、ヴィオがちょっと驚いた顔をしてから小さく頷いて、
「‥ありがとうございます。キサ今度一緒に行こうね」
「はい。楽しみにしてます」
それまでずっと手を繋いでいたヴィオがそっと手を離して、
「行ってらっしゃい、キサ」
笑って手を振ってくれて、もうちょっと「ヤダ」と言われるかと思った私は内心かなり驚いた。お、大人になったなぁ‥。そう感心していると、ヴィオの耳がシュンと垂れていて‥、
「‥ちゃんと我慢するから、早く帰ってきてね」
と、言うので‥、思わず頭を撫でてしまった。
ヴィオは驚いて、「もう!せっかく我慢してるのに!!」と怒っていたけれど、ダメだな〜〜、私の方がヴィオ離れできてない気がする。
そんな私とヴィオを見て、ゲラゲラ笑ったターシェさんは私の手を握ると、
「ちゃんと大事な奥さんを返すから安心して!あ、幻獣教育頑張れよ〜!本当に眠いから!」
あはは!と笑うターシェさんに、ヴィオは「ええ〜〜?!」と眉を下げるとベルナさんがじとっとターシェさんを睨むけれど、そんなこと気にしないターシェさんはあっという間に私とベルナさんを連れて転移して、気が付くと大きな建物の前に立っていた。
「ここ‥」
「パルマの劇場。結構大きいね〜」
「すごい‥」
建物はそれはもう煌びやかな造りで、石造りの建物だけど彫刻が前面に掘られていて、銀色の狼が見えた。
「あれって‥、狼?」
「そりゃここは銀狼が守護する国だしね」
劇場にまでヴィオの姿が掘られている事にびっくりして目を見開くと、ターシェさんは可笑しそうに笑って、
「うちの劇場はもちろん一角獣だよ。その国ごとに幻獣が彫ってあったり、描いてあるんだよ。あんまりキサは街の中歩いてないんだよね?今度シルヴィオと一緒に見てみるといいよ」
「は、はい」
「じゃあ、早速行こっか!」
ワクワクした顔でターシェさんが入り口を指差すと、そこにはキートの騎士団でお世話になってロンベルク団長さんとヴィオと一緒に訓練をした騎士さん達がいて、目を丸くした。
「ろ、ロンベルクさん?!」
「シルヴィオ様に演劇を楽しむ間、警護を頼まれまして‥。本日は短い時間ではありますがよろしくお願いします」
「お、お願いします‥?」
絞り出すように言ったけれど、ヴィ、ヴィオ〜〜!??一言も聞いてないけど?!