幻獣様、いつかの未来。20
「さて、先に力をあげよっか」
お茶を飲んで一息入れてから、
ターシェさんに力を貰ってセスは嬉しそうに微笑んだ。
椅子から降りて自分の体を見て、手足を動かしているけど、
私も水の精霊さんに貰った「千里の瞳」でセスを見ると、体の中の光が綺麗に満たされているのが見える。神様の力ってすごいなぁ〜〜!感心しちゃう。
ターシェさんもセスを見ながら、
「今回、この世界に体を慣らしに来たけど‥、慣らすどころかかなり馴染んじゃってるよね?」
「そ、そうなんですか?」
「うん、昨日は穢れを祓っちゃう花まであちこち咲いたし‥。こっちに来るのもっと早い段階になるかもね」
私とヴィオは思わず顔を見合わせる。
そうなったら、またすぐにセスに会えるのかな?セスもそれを聞いて、ちょっと期待したような顔で私達を見上げる。
「そうしたら、キサにもヴィオにも皆にも会える?!」
「そうかもしれませんね。あとは神様次第ですね」
「‥会いたい、またすぐ会いたい‥」
セスはそう言って、座っている私の腰にギュウッと抱きつく。
うわぁあああ!!か、可愛いよう〜〜〜!!!
私も会いたいよう〜〜!!思わずセスの頭をわしゃわしゃ撫でていると、ヴィオが宙を見る。
「‥もう迎えが来た」
「えっ!?」
私が顔を上げて周囲を見ると、ターシェさんもヴィオと同じ宙空を見る。
私やベルナさんには何も見えないけど、ヴィオ達が見ている方向に神様が来たそうだ。予想より早く仕事が終わったようだ。
セスはそちらを見上げて、すぐに私の腰にさっと顔を隠す。
「「やだ!!ヤダヤダ、帰りたくない!!」」
‥誰かとそっくりな拒否の仕方‥。こんな所まで似ちゃうの?
とはいえ、まだ一緒にいると思ったのに、急なお迎えは確かに嫌だよね。‥でも、神様の側にまだいるべき存在なのは確かなんだろう。
私がそっとセスの髪を撫でると、セスが顔を上げる。
水色の瞳から、ボロボロ涙が溢れてて、
その顔を見た途端に私まで涙が出てしまった。
「キサ、やだぁ。帰りたくない。キサとヴィオといる‥」
「セス‥」
私だって一緒にいたいよ〜〜〜。
でも、まだまだ君の魂も体も、馴染んできたとはいえ神様が迎えに来るくらいだ。まだ時間が掛かるのだろう。セスの体も撫でると、しゃっくりをあげ始めて私まで切なくなってくる。
そうしてヴィオがセスの隣にしゃがむと、優しく髪を撫でる。
「待ってるよ。すぐまた来るんだろ?」
「行く」
「神様のお話を聞いて、しっかり休んだら、またおいで」
「ヴィオ、お話してくれる?」
「神様とお話する時、セスとも話させてってお願いする」
「‥わかった。でも悲しい。やだ」
セスが涙を両手で拭いつつ、そう話すから‥。
ヴィオも泣きそうな顔をしつつ、セスの涙を服の袖でそっと拭き取ってあげた。
「うん、僕も嫌だ。だから待ってる」
「〜〜〜ヴィオ、好き!キサも皆、大好き!」
セスがギュッとヴィオの首に抱きつくと、ヴィオがとうとう涙した。
それを見ていた私なんて、もう涙がだーだー流れて‥、ターシェさんがちょっと笑いながらハンカチを貸してくれたほどだ。ベルナさんもウルウルしてる。
「待ってるよ、セス。ずっと待ってる」
「うん、待っててね」
セスがそう言うと、体が段々と透明になっていく。
帰っちゃう!!
私はセスの手をそっと握る。小さな、白い手を握って、自分の力をそっと流す。ちょっとしかないけど、少しでも早く元気になって、本当にこの世界へ来られるように願った。
「セス、待ってるね。大好きですよ」
私がそう言うと、セスは嬉しそうにニッコリ笑った。
「今度は、いっぱい遊ぼうね」
セスがそう言うと、スゥッと姿が消えて‥、
辺りに黄色のセスの力の色が弾けるように広がって、そうしてそれも静かに消えていった。嗚呼、帰ってしまった‥。そう思った時、
『今度は、キサとヴィオの子供になるね!!』
セスの声が聞こえて、私とヴィオは顔を見合わせた。
こ、子供!!??
ヴィオと私の???!
瞬間、二人で真っ赤になって慌てて俯くと、ターシェさんがニヤニヤしながら自分でお茶をカップに注ぎ、
「こりゃ〜〜、次に来るのが楽しみだなぁ〜〜」
って、ニッコリ笑うので、私とヴィオはものすごい置き土産にますます顔が真っ赤になるし、どうにも動けなくなってしまって大変だった。
でも、セス‥
どんな形でも、待ってるよ〜〜!!
ようやく動けるようになった私は、綺麗な晴天を見上げたのだった。