幻獣様、いつかの未来。10
ヴィオ達が部屋を出てから、そんなに時間は経ってない。
この存在にすぐ気が付くはず‥と、思ったけど‥足音は聞こえない。それどころか扉の外にいるはずのニケさんもこちらへ来ない‥。おかしい、何かあればすぐに入ってくるはず。
それどころか、シンと今まで鳥が鳴いていたりしたのに、何も聞こえない?!一切の音がしていない事に気が付いて、周辺をまた見回す。
ドキドキしつつ、セスをいざとなったら抱えて逃げられるように毛布にくるんだまま抱き上げる。
腕の中では、まだクッタリして寝ているセス。
その様子を見るだけでホッとするけど、気配はいなくならない。
じっとこちらの様子を見ているのだけが分かる。
と、足元に黒い小さな影が見える。
「え?!!魔の者??!」
神殿の中なのに!?
驚いて目を見開くけど、急いで黒い小さな影から離れるようにセスを抱きかかえらると、中庭へ通じる大きな窓が一人でキィっと音を立てて開いた。
ひ、開いた!??
まるでこちらへ来いとばかりに、銀色の光が上へと流れていくのが見える。‥どうする?行くべき???ゴクリと唾を飲むと、セスがふと目を開ける。
「‥キサ?」
「あ、セス‥ごめん。何かちょっと今不味い雰囲気なの」
「‥うん、空気おかしい」
「セスも分かるんだ」
私がそう話すと小さく頷く。
そうして、天井を指差す。
「‥なんか怖いけど、大丈夫だと思う」
「そ、そう??逃げられるかな?」
「‥来いって言ってる」
「やっぱりそうなのかぁ〜〜〜!!」
とはいえ、一人でドキドキしてたけどセスがいるとそれだけでなんだか安心だし、逆に守らなきゃって気持ちが強くなるような?
ギュッとセスを抱きしめると、セスが私を見上げる。
「絶対、守るからね!」
「‥‥うん」
小さく微笑むセスに、私まで安心する。
セスは自分で歩くというので、そっと下ろして銀色の光の方を手を繋いで辿って、屋上の階段を登っていく。
「こっち‥?」
屋上を見ると、大きな黒い鳥が今朝ヴィオ達で力を与えた植物の鉢の前に立っている。
黒い鳥‥。
どこかで見たような??
『なんだ、やはりお前達か』
黒い鳥がこちらを振り向くと、私はハッと思い出した。
細長い黄色のくちばしに、黒い大きな鳥‥。
「魔の国にいた、鳥さん?!!」
『‥‥まぁ、そうだな』
そ、そうか‥。
ゾクゾクしたけど、何か攻撃してくる気配がしなかったのはこの鳥さんだからかな?ホッと息を吐くと、セスが不思議そうに私を見上げる。
『そいつは白虎か。まだここへ来るのは早いんじゃないか?』
「あ、今回は色々あって‥」
『ああ、神の都合か。そういえば忙しい時期だったな』
魔の国の人も神様の世界の事を知ってるの??
目を丸くしていると、セスが私の前に立ち塞がる。
「せ、セス??」
「危ないと思ったら、幻獣守る」
「「それはヴィオだけでいいから!!!」」
私は慌ててセスを抱き上げる。
剣の練習の時に何か言ったの?ヴィオ???全く、まだ小さいセスは守られる存在なんだけど!!
黒い鳥は、そんな私達を見てククッと笑う。
『随分勇ましくなったな』
「まぁ、あの頃に比べたらそうでしょうけど‥」
セスは覚えているか分からないけど、魔の国に逃げ込んでこの黒い鳥さんに連れて帰れって言われたし‥。その時に比べたら、確かに勇ましく見えるだろうなぁ。
『この世界にない気配を感じて、見に来たんだ。原因が分かればいい』
「あ、セスの力ですか?」
『しばらくなかったからな‥。あと魔の穴の者達が神達が出かけるのを知って、こちらの世界へ手を出そうとしている。気をつけろ』
え!!そっちも結構大事な用じゃない?!!
驚いている私の後ろから、足音が聞こえる。ヴィオかな?後ろを振り返ろうとすると、
『白虎をよく見ておけ。じゃあな』
黒い鳥の声に鉢の方を振り返ると、どこにもいない‥。
セスが「帰っちゃった」って言うけど‥。
一瞬の出来事に、びっくりしたけど魔の門が出現するかもしれないなんて一大事だ。ヴィオに早く知らせようと思った瞬間にヴィオに後ろから抱きしめられた。
「「キサ、セス、大丈夫!!??怪我してない???」」
「あ、だ、大丈夫です。一応」
「「一応!!??どこが痛いの???」」
息せき切ってやって来たヴィオが私とセスの顔や体を見るので、思わずセスと顔を見合わせて笑ってしまうと、ヴィオが「「もう!!笑ってる場合じゃない!!」」って怒った‥。そうでした!すみません〜〜!!