幻獣様は成長したい。3
何処かで声が聞こえる‥。
「やはり内通者がいるようだ。騎士団の警護の前日に神殿に敵が侵入するなんて‥」
「しかし、さすが「異世界の乙女」魔術に惑わされないなんて‥」
「あの鈴の音が止まったおかげで助けに来れた」
「ねー、まだキサは起きないの?」
ああ、ヴィオの声がする‥。
良かった‥、ヴィオは無事みたいだ。
ホッとしている私の手を、小さなが手が握る気配がする‥。
小さな手‥?
そっと目を開けると、銀色の髪に、銀色の犬のような耳が頭の上についた小さな男の子が私をニコニコ笑って見つめている。
「‥誰‥?」
「もう!キサ、僕だよ!!ヴィオだよ!!」
‥ヴィオ??
私の知っているヴィオは、銀色の子犬ですが??
ベルナさんが私が起きたのを見て、慌ててベッドのそばへ駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?キサさん」
「ベルナさん‥、あの黒いのは?」
「貴方のおかげで倒すことができました。もう大丈夫ですよ」
体を起こすとベルナさんが説明してくれたけど、色々な魔法で守られている神殿だけど、呪いの魔術を使って神殿の中を侵入しようとしたらしい。犯人は昨日話題に上がったロズの国の仕業だと言うから、ゾクッとした。
でも良かった‥、とりあえず皆無事みたい。
ホッとした私の横に座ってニコニコ笑いながら尻尾を揺らしている男の子がワクワクした顔で私を見ていて・・、さっきヴィオって言われたけれど俄かには信じ難い。
「‥えっと、本当にヴィオ、様?」
「うん!!僕だよ!!やっと人間の姿になれた!これで剣が習える!!」
「人間の姿になれるの‥初めて聞いたんですけど?」
「そうなの?誰も教えてなかったの?」
ヴィオがそう言って、ベルナさんやニケさん、マルクさんを見るけど、皆知らなかったらしい。そ、そんな事ってあるの??!!!なんでも、前回の銀狼は人間の姿には、ほとんどならなかったらしい‥。ごく稀にしか人の姿にはならなかったから、銀狼の姿が普段の姿だと思っていたそうで‥
「‥って事は、これから大人の姿として大きくなるの?」
「うん!!僕、人間の姿になって剣を持ちたかったんだもん!!嬉しいな!」
ニケさんは、「それで剣を習いたかったのか〜!」と納得しているし、
マルクさんは「なんという神々しいお姿!!」って感動しているし、
ベルナさんは「だからお守りしたいと‥」って、感心しているし、
だけどちょっと待て‥?ちょっと待てよ??
今、こんなに可愛い少年がその内、大きな青年になるって事でしょう??しかも朝も晩も異世界の力を流す為に私は一緒にいるんだよね‥?
思わずマルクさんをまじまじと見て、
「夜はその内、別々に寝るとかはありですかね?」
そう聞くと、マルクさんが答えるよりも先にヴィオが、
「やだー!!!!ヤダヤダヤダー!!!絶対、ずっっとずっっっとキサと寝る!!」
「‥いや、大人になったら絵面的にまずい事になると思うんです」
「でも、また鈴の音が響いたらどうするの?」
「うっ!それはベルナさんにお願いして・」
ベルナさんが胸を張って「ああいった魔術はもう効かないようにはしておきました」と、言ってくれたのでホッとした。と、いうわけで大きくなったら別々ですよって言おうとしたら、マルクさんが申し訳なさそうに私を見て、
「すみません‥、大人になるまではご一緒願います‥」
「え」
「一年はお側にいないとシルヴィオ様の成長が‥」
「ええええ??!」
ヴィオはマルクさんの言葉を聞いて、喜んでベッドの上でピョンピョン飛び跳ねるし、私は呆然としてしまう・・。
「今度は剣も習うから、キサを守るね!!」
「お願いです〜〜!守られて下さい!」
「ヤダヤダヤダー!!!」
子育ての道は険しそうだ‥。
ピョンと膝の上に乗っかってきて、嬉しそうに私を抱きしめる甘えん坊のヴィオの頭を撫でると、子犬の時と同様に手に頭を擦り付けてくる所は変わらなくて、そんな様子にホッとしてサラサラの髪を撫でた。