幻獣様は成長したい。2
「ヴィオ!!ヴィオ!!!」
必死に呼んでいると、目の前に金色の糸がふわりと見える。
え、なにこれ‥。
金色の糸は、ふわふわと中庭から‥廊下へ‥、奥へと続いている。とにかく分からないけど、どこか金色の糸の方に、ヴィオがいる気がして、金色の糸を頼りに走っていく。
暗い石の廊下を走り、角を曲がったところ‥
その奥に、ヴィオの尻尾が見えた。
「ヴィオ!!!」
思い切り大声で叫ぶ。
戻ってきて、そっちにいっちゃダメ!!!ドクドクと胸の音がうるさいぐらいに鳴って、足が震えて転びそうになる。それでも金色の糸を辿って奥の廊下へ走っていくと、その奥の扉が静かに開いて、ヴィオを連れて行こうとしているのか鈴の音がますます鳴り響く。
あの鈴の音が、ヴィオを連れていこうとしている?!
急いで、サンダルを脱ぐと、扉に向かって思い切りぶん投げた!!!
一足、扉にバン!とぶつかると、一瞬、鈴の音が止まった。
「ヴィオ!!お願い!こっちへ戻ってきて!!!」
私が叫んだ声に、それまで操られるように歩いていたヴィオがハッとした顔をして後ろを振り返り、私を見て驚いたように目を見開いた。
「‥あれ?キサ?」
「ヴィオ!!こっちへ早く!!!」
また鈴の音が流されたら、扉の向こうへ行ってしまう!
私はそう叫びながらヴィオの方へ駆け出す。
どうやら、扉からこっちへは向こうにいる人は入ってこれないらしい。急いで駆け寄って、鈴の音がまた流れたけどすぐにヴィオの体を抱きとめる。
「ヴィオ、大丈夫?!しっかりして!!」
「‥うん、今は大丈夫。キサの腕の中だからかな‥?」
ホッとして、ヴィオを抱きあげてここから離れようとすると、鈴の音が止まった。
止まった‥?
扉が途端、ギギッと静かに開くと奥は真っ黒く塗りつぶされたようになっていて、ベチャ‥という何かを引きずるような音が聞こえる。
‥ベチャ、ベチャ、という音がどんどん迫ってきて、思わず後ずさる‥。
怖くて、走り出したいのに足が震えて思うように動かない。
ずるっという音と共に扉から、大きな黒い手が無数に這い出てきて、黒い液体が手からそれぞれ滴り落ちるその光景にゾワりとする。
逃げなきゃ‥
逃げなきゃ‥!
そう思うのに、体が動かない。
「キサ!!!走って!!」
ヴィオの声にハッとして、黒い無数の手が勢いよく伸びてくると同時に、走り出した。幾つもの手がベチャベチャと音を立てながらどんどん勢いよく迫ってくるのがわかって、怖い!長い石の廊下を走って中庭まで行こうした途端、黒い手に足首を掴まれて、思い切り転んでしまう。
「きゃっ!!」
咄嗟にヴィオだけは守ったけれど、ヴィオは私の手から飛び出して、
「キサ、待ってて!!今助ける!!」
「ダメ!!逃げて!!ヴィオは逃げなきゃダメ!!」
「ヤダヤダヤダ!!!キサを助ける!!」
言うことを聞いてくれ〜〜〜!!!
加護のない国なんて言ったら、どうなっちゃうのよ、この甘えん坊!!!
私は黒い手に触りたくなくて自分の足で、足首を掴んでいる黒い手を蹴飛ばすけど、ちっとも離れない。ヴィオがその手に噛み付いて、ようやく手が離れた!
「ヴィオ、早く逃げて‥」
ヴィオをもう一度抱っこして、逃げようとすると
ベチャ‥と、黒い液体が顔にかかる。
上を見上げると、黒い無数の手が私とヴィオに覆いかぶさろうとして‥、もうダメだ!!!ぎゅっとヴィオを抱きしめた途端、
右側から強い光を感じて、思わず目を瞑る。
その瞬間、ザシュッと何かを斬る音が聞こえた。
「キサ、こっちへ!!」
誰かの声が聞こえて、目を開けると目の前にニケさんの背中が見えた。
周囲を見ると、ベルナさんが魔法を使っているのか‥手から眩しいくらいの白い光が出ていて、黒い手の動きを止めているみたいだ。
その間にニケさんが剣を構え、
大きな黒い手の真ん中を思い切り突き刺すと、黒い手からものすごい悲鳴が聞こえて、慌ててヴィオを抱きしめる。
黒い手は、急速に小さく縮み‥、
ベルナさんの眩しい光に包まれたかと思うと、跡形もなく消え去った。
その光景を見て、安心した途端に私はぷっつりと意識を失った。