幻獣様は、乙女が一番。15
ストールを被ったままの私は、ヴィオと一緒に休んでいた部屋に一旦戻った。なんだか色々あってまだ落ち着かない私をヴィオがベッドに二人で腰掛けるとそっと抱きしめてくれた。
「‥怖い思いさせちゃってごめんね」
「ちょっと怖かったけど、それよりもアスタルさんの方に驚いちゃって‥」
私がそういうと、ヴィオがちょっと目を伏せる。
「神様にその話を聞いて‥まさか?って思ったんだけど‥」
そう、小さい声で話すと黙ってしまった。
そうか‥。
私なんかは以前いた世界で、よくニュースや話には聞いてたから驚いた‥くらいだけど、この国を守っているヴィオにとっては、自分の国の、しかも神殿での不正だ。心が痛むだろう‥。
すっかりどこか、悲しい事や、嫌なことに自分の心がどこか麻痺していたように感じて、まだこの世界に来て一年しか経っていないヴィオにとって、どれほど悲しいことだろうと思うと、私まで胸が痛い。
そっと抱きしめてくれていたヴィオの手に、手を重ねる。
「‥悲しかったね」
「うん」
「‥側にいるから‥」
「うん」
そう言ったけど‥。
それ以上なんて言ったらいいか‥、上手く思い浮かばない。
きっと、こんな事は長く生きていれば何度も起きる。その度に失望したり、悲しい思いをするだろう。それは、今までの幻獣もそうだったと思う。白虎の幻獣だって、この世界に行きたくないと魔の世界へ逃げるくらいだもん。
「ヴィオ、いっぱい話そう」
「え?」
「‥きっと、私達だってうまくいかない時もあると思う。でもいっぱい話そう。辛い気持ちとか、嬉しい気持ちをお互い知っていこう」
ヴィオを守っていきたいし、一緒にいたい。
でも、それが難しい時が来るかもしれない。
現に強く言いすぎて、素直になれなくて、ギクシャクした時もあったし。
「キサ、ありがとう‥」
ちょっと目がうるっとしているヴィオが、私を見つめる。
大人だけど、まだ一歳。そうして心がとても柔らかくて、優しくて‥私の夫でもあり幻獣様だ。辛い事も、嬉しいことも半分こすればいい。
お互いに手をぎゅっと握って、二人で見つめ合うと、
静かに顔を寄せ合う‥と、
『あ、いたいた〜〜!乙女様〜!!なんで置いていくんですか〜!!』
み、水の精霊さーーーん!!??
私達の前に、パッと姿を現したかと思うと、
水色の蛇がくるっと私の手首に、再びバングルのように巻きつくとヴィオがジロリと睨む。
「こら!!僕のキサに軽々しく触れないで!!」
『ええ〜〜〜、わざわざ神殿の中を調べたの僕ですやーん?』
「ダメ!!それとこれとは別!!」
キャイキャイと二人(?)が私の前で言い合うけど、ちょっと待って?神殿の中を調べてたの???
「水の精霊さん、神殿を調べたの??」
『はい!神殿の内部とか、書類とか、あ、食事してる時、乙女様に見つかりそうでヒヤッとしましたわ〜』
「食事の時…?あ、もしかして黒い影って、水の精霊さんだったの?!そっか、だからゾクゾクした怖い感じがしなかったんだ‥」
それが分かっただけでもホッとする。
そんな私にヴィオは、
「うん、でも、このまま神殿を放置してたら、きっと淀みが溜まって「魔」が寄り付くのは確実だったと思う」
「‥‥あまり大丈夫じゃなかったんですね」
「うん、だから今回はキサにも来て貰ったんだ」
そうか、じゃあ‥私、ここにいて良かったんだ。
小さく息を吐くと、ヴィオが嬉しそうに頬にキスしてくれたけど、あ、あの水の精霊さんが目の前にいるんですけ!??水の精霊さんは『ラブラブですな〜〜』て言ってるけど、恥ずかしいしかない。
そうして、ニケさんやベルナさんが、アスタルさん、テレッサさんを騎士団に移送された事を伝えてくれると、今晩はもう遅いので朝、改めて報告するという話をしてくれて‥、私達はようやく眠ることになったけど、
「そういう訳だから、水の精霊、出てって」
『ええ〜〜!!僕も乙女様と眠りたい!』
「絶対ダメ!!!キサは僕のなんだから!!」
もう寝ようよ〜〜〜。
しばらく押し問答をしているのを聞いていたけど、疲れて私は一足先に眠ってしまった‥。ごめん、もう疲れちゃったんだよ〜〜。