幻獣様は、乙女が一番。14
私の手首にクルッと巻きついた水色の蛇‥もとい、水の精霊さんはニコニコと機嫌良さそうに私をつぶらな瞳で見つめる。
『いや〜〜、また会えて嬉しいです〜!!』
「あ、ありがとう‥、でも、今はそれどころじゃないかな〜?」
チラッとアスタルさんを見ると、綺麗な顔を歪めて、もう一度手の平から白い弓矢を浮かび上がらせる。
「‥水の精霊を使役するなんて、とんだ乙女だわ」
「に、逃げよう!!精霊さん!!!」
次も弓矢が来たら大変だ!!
ヴィオや騎士さん達にでも刺さってしまったら、怪我をしてしまう。私が水の精霊さんを抱えるようにして水の器を避けるように逃げようとすると、
「そこまでだよ」
いつもの聞き慣れたヴィオの声がする。
元に戻ったの?!
水の器の方を見ると、ヴィオがこちらを見ているけど、途端に透明になったかと思うとバシャと水音を立てて流れてしまった。他の騎士さん達も次々に水になって流れてしまって、私もアスタルさんも突然の事に目を見開く。
「「ヴ、ヴィオ!!??」」
「ここにいるよ」
慌てて叫ぶと、背中からふわりとヴィオが私を抱きしめた。
い、いつの間に後ろに!?
振り返ると、優しくヴィオが微笑みかけて私の体をぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫?怪我してない?」
「ヴ、ヴィオ、あれ?何で、こっちに!??」
「だってあれ幻だもん」
ま、幻!!??
どう見ても本物っぽかったけど??!ヴィオは私を抱きしめながらアスタルさんを見ると、アスタルさんは、すっかり青ざめている。
「この神殿で祈りがされてないと知らされたけど‥本当だったみたいだね」
「「えっ!??」」
そんなこと、一言も聞かされていない私は目を丸くする。
アスタルさんは、ヴィオをじっと見つめて、
「‥それは、大きな誤解のように思います」
「ではなぜ、こんなに神殿に淀みが?それにロズやダズで使われていた、その禁忌とされる鈴を使ったの?幻獣を操れると聞いたから?」
「これは、知らなくて‥」
それは、どう考えても無理な言い訳だ。
ヴィオは少し眉を下げて‥、
「神様が悲しんでた。そんな事をする人じゃなかったのにって。魔術を使って、周りの人を惑わすような人じゃなかったのにって‥」
神様が教えてくれた??
アスタルさんは、その言葉を聞いて目を見開くと、やがて静かに膝をついて俯くと、後ろから数人の足音が聞こえた。振り返ると慌てた様子のテレッサ神官長さんや、ニケさんやベルナさん、ロベルク団長さんが騎士を伴ってやってきた。
ロベルク団長さんは手に書類を持っていて、
ヴィオのそばへ来ると、小声で話す。
「収支報告書、やはり書き換えられていました」
「‥横領もあったんだね。おかしいと思ったんだ、騎士団にまでお金を迫るなんて‥」
お、横領!!??
もう話についていけなくて、目を丸くするしかできない。
ヴィオは、私を見て、
「‥キサ、癒しの力を皆に見せたいんだけど、いい?」
「へ?い、いいのでは?」
「ありがとう」
そう言ってヴィオがにっこり笑うと、私の手を握る。
あ、金色の力の事か、私は目を瞑って、ヴィオに力を送るイメージをした途端、そのままキスされた。
っへ?!!
驚いて目を開くと、ヴィオが私からゆっくり離れるけど‥
離れたけど!!!
い、今、人前で‥、き、キスした!??
「力をありがとう、奥さん。」
そう言って、微笑んだヴィオが手を上げると神殿の部屋の中いっぱいに金色の光が雨のように降ってきたかと思うと、水の器がキラキラと光り出す。
アスタルさんや、テレッサさん、騎士さん達が驚いて声をあげる。
「これが癒しの力だよ?ちゃんとお祈りしていれば、こんな風に光るはずなのに‥。お金を使うことに夢中になってしまって随分と長い間、お祈りがちゃんとされてなかったんだね。キサが見ても分からないのは当たり前だ」
そう言ってヴィオがアスタルさんを見たけど、もう呆然とした顔をしている。ロベルク団長さんがアスタルさん達を連れて、騎士さん達と神殿の間を出て行くと、途端に周囲が静かになる。
と、ウズウズとしていた水の精霊さんがキラキラ光る水の器を見て、『やっと綺麗になった〜〜!!』と、喜んで飛び込んだ。ああ、お、泳いでいいのかな??
慌てていると、ヴィオが笑って、
「水の精霊が喜ぶくらい、綺麗にしてくれたのはキサの力だよ!」
「え、ええ???ヴィオの力では??」
「‥ううん、キサのおかげだよ。ありがとう」
そう言って、ニコリと微笑む。
…あ、あの、嬉しいけど、いまはその、恥ずかしいかなぁ〜〜〜!!!真っ赤になった私をベルナさんがまたもストールを貸してくれたので、頭から被るとヴィオが「隠さないでよ〜〜!」って言うけど、無理です!!