幻獣様は、乙女が一番。12
見間違いでなければ、あれは「魔の者」かもしれない。
でも、あの特有のゾワッとした嫌な感じはしなかった‥。じゃあ、あれは何だろう。お、お化け!!?嫌だなぁ、私、霊感なんてなかったはずなのに‥。
そう考えていたら、
「キサ様はどう思われますか?」
鈴を転がすような声で、アスタルさんに何かを聞かれている事に気付いてハッとする。しまった、つい考え込んでいて話していた事を聞いてなかった。
「あ、す、すみません‥、もう一度」
「あら、昨今の世情にはあまりご興味が?」
じっとりとした視線で見られて、ドキドキしてしまう。‥いや、ですから話をもう一回して欲しいなぁ‥。どうしたものかと思っていると、ヴィオが私を見て、
「申し訳ないけれど、今日はそろそろ休みます。妻も疲れているからね」
妻!!??
びっくりしてヴィオの顔を見ると、落ち着いた様子でにこやかに微笑んで、
「キサ、今日は一日振り回してしまってすまないね。明日の朝、お祈りに行くから今日はもう休もう」
妻というワードに驚いて、赤い顔でコクコクと頷くと
アスタルさんが私をじっと睨むように見ていて、‥視線がちょっと痛い。え、えっと、なんだかすみません‥。
ニケさんがさっと立ち上がって、
「じゃ、部屋に戻りますか!キサ様、どうぞこちらへ」
キサ様?!
そんな風にいつも呼ばないのに?目を丸くしつつ、立ち上がるとヴィオが私の手をそっと握って、アスタルさんを見ると小さく微笑み、
「今日はありがとう。おやすみ」
それだけ話すと、私と部屋へと戻ったけど‥、
い、いいのかな?なんだかもっと話したそうだったけど。
国を守る神様みたいなヴィオと話す機会なのに、私の都合で振り回してしまっていいのだろうか‥。ちょっと不安になってヴィオを見上げると、茶目っ気たっぷりに笑って、
「‥実は僕も、もう疲れて眠いんだ」
「ヴィオ‥」
体力が無限にある幻獣様なのに‥。
あ、そういえば黒い影!
ヴィオとニケさん、ベルナさんと廊下を歩きつつ、小声で「魔の者」を見たかもしれないと話すと、ベルナさんが少し考えて、
「‥念の為、周囲を調べておきましょう。ただ、万が一の事もあるので今晩はもうお部屋にいて頂ければと思います」
私とヴィオが静かに頷いて部屋へ戻る。
今晩は騎士さん達が一晩交代で警護するらしいけど‥、なんか‥見たかもしれないだけなのに、かえって大ごとにしちゃったかも??
さっきはアスタルさんの質問にも答えられなかったし‥。
私、ダメダメな異世界の乙女では?
ベッドに座って、ちょっとしょんぼりしてしまうと、ヴィオが私の隣に座る。
「‥僕の可愛い奥さん、どうしたの?」
「「なっ!!!お、奥さんって、さっきも妻っていうから、驚いたんですけど!」」
「え、だって僕の妻だし、奥さんだし!!」
そういうと、さっきの大人の余裕を感じさせるヴィオと同一人物に見えない変わりようで甘えてくるヴィオ。私の頭にヴィオの頭がコツンと当たって、そのままサラリと銀色の髪が流れてくる。
それだけなのにホッとして、私もヴィオの肩に頭をもたれ掛ける。
「‥奥さんなのに、ヴィオをちゃんと支えられているのかな‥」
ポツリと言うと、自分が何に不安に思っていたかはっきりと分かった。
そうか、何だかモヤモヤしたり、どこか不安に思っていたのって、アスタルさんのようにしっかり自分は出来ているのかわからなかったんだ。あんな風に綺麗でもないし、しっかり発言もできないしなぁ。
そう思っていると、ヴィオが私の膝にそのまま倒れるように頭を乗せた。
「ヴィオ!??」
「キサは十分支えてくれているよ」
「でも、私‥」
「ただそこにいてくれるだけど、ここにいてくれるだけで十分だよ。おかげで僕は真面目に仕事してるってベルナに言われたくらいだよ」
んん??
普段は真面目に仕事してないの?
ヴィオを見下ろすと、慌てて手を口に当てた。
「‥ヴィオ?ちゃんと仕事してないんですか?」
「してるよ!!ちゃんとしてる!!!」
本当かな〜〜???じとっとヴィオを見るけど、明日ベルナさんに聞いておこう。そして、一緒に仕事をするのを見せて貰おう。何かあったら手伝える為に。それと、サボってないかをチェックするために。