幻獣様は成長したい。1
昼食後、別室で私はヴィオと、ベルナさん、ニケさん、マルクさんと話をする事になった。
ニケさんは大きなテーブルに、世界地図を広げて見せてくれて、私達が住んでいるパルマの左側‥海を隔てた国を指差す。
「実はロズの国が、シルヴィオ様を狙っているという話が入りました」
「え?!」
「ロズと、この国のすぐ下にダズという国は、大昔‥神の怒りに触れて幻獣の加護を持たない国となったのです」
加護を持たない国‥。
それって、どうなっちゃうの?
「加護を持たない国は多くの災害から守られないので‥、大分苦労していますね。そんな所にシルヴィオ様が生まれて、幻獣の加護が欲しくない訳がない。しかもこの一年以内に手に入れたいから‥必死なんです」
「な、なんで‥」
私が真っ青な顔で聞くと、
ベルナさんがシルヴィオ様を見て‥
「一年‥大人として育ち切ると、パルマの幻獣としてその後はどこへ行こうとも加護はパルマだけのものになるからです」
‥つまり、パルマの国の物になる前に連れ去ってしまおうと?
私は膝の上にいるヴィオをギュッと抱きしめた。
と、ヴィオは私を見上げてキリッとした顔になり、
「僕は大丈夫だぞ!!」
「そうは言っても心配です‥」
君はまだまだ子供なんだぞ。
私が不満げにそう訴えるけど、ヴィオも不満げだ‥。
小さく笑ったニケさんが、神殿の見取り図を広げる。
「ですので、今回は街の中をパレードをしてお披露目するんですが、安全を考慮して、神殿のバルコニーからのみ‥お姿を見せて頂こうと思っています」
「そうですね、その方が安心です」
「はい。万が一の事があったら、ここか、ここにお逃げ頂きたいんです」
それはしっかり覚えなくては!!
神殿内部は思ったより広くて、未だに迷ってしまうから。
見取り図は重要な資料なので、ここで覚えていって欲しいと言われて、頭の中に必死に叩き込む。
「当日は、俺も必ず側にいますので、ご安心下さいね!!」
「‥‥ニケ、私とお言いなさい」
「あ、悪いベルナ!」
結構、ざっくばらんとした人らしい‥。
ベルナさんに口調を直されても、平気な感じだし。とりあえず優しそうで良かった。
騎士団の人が、明日から神殿の周りを警護してくれるらしいので‥、何かあればすぐに知らせて欲しいと言われて、頷く。とにかくヴィオを守らなくちゃ。
話し合いが終わって、ベルナさんが部屋まで送ってくれる。
「ヴィオ、とりあえず気をつけて過ごしましょうね」
「うん、キサ怖くないからね」
それは私のセリフです〜〜。
私は君よりずっと年上なんですけど?
でも、ちょっと得意げに私にそう話すヴィオが可愛いから‥、まぁ、いっか。
あっという間に夜になって、明日は騎士団の人も来るし、3ヶ月のお祝いの準備や式典の流れの確認もして、一週間にはお披露目会だ‥忙しいなぁ。
またあのお化粧をするのかな。
そんな話をベッドでヴィオにしたら、
「キサすごく綺麗になっちゃうと恥ずかしくて緊張する‥」
って、いうものだから、私がノックアウトされ‥。何この可愛い生き物。君だって、ジャラジャラ付けられてて可愛かったんですけどーー!?
「今度は、ちゃんと待ってて下さいね」
「‥‥僕、もう大人だから待てる」
嗚呼!!可愛いな!!
ヘラヘラした顔で撫でたら、「ちゃんと分かってる!?」って言われた。うんうん分かってるよー(棒読み)
そうしてベッドで二人で眠っていると、
何処かで鈴の音がする‥。
なんだか胸騒ぎがして、ふと手を、いつもヴィオが寝ている辺りに置くと‥冷たい。
瞬間、目が覚めて慌てて体を起こし、周囲を見回すけど‥ヴィオの姿が見えない!!
「ヴィオ!!ヴィオ!!??」
青い顔をして立ち上がり、テラスの窓が開いているのに気が付く。
また外へ出たの?!でも、さっきから聞こえるこの鈴の音に胸騒ぎが止まらない。これは‥勝手に行ったとは思えない。急いでサンダルを履いて、中庭の方へ駆け出し‥、ヴィオの名前を必死に呼んだ。