幻獣様は、乙女が一番。6
ヴィオが何やら吹っかけてきた神官長さんに姿を現した事で、
まさか幻獣様と戦っていたとは知らなかった騎士さんはびっくりするし、神官長さんは驚きで言葉が出てこないし‥、一時騒然としたけど、ロベルク団長さんが、
「さすがパルマの幻獣様の御心遣い、我ら騎士団も感激です。どうです?せっかくですから、その騎士団の守っているこの街をご案内致しますよ?」
と、いう流れるような会話の運びで私達はサッサとその流れに乗ることにした。ヴィオはあっという間に人の姿に戻り、騎士さん達に笑顔で別れを言うと、騎士さん達も嬉しそうに「また来てください!!」と手を振ってくれた。多分、また近く行きそうだなぁ‥。
神官長のテレッサさんは目を白黒させつつ、自分も案内する!と、
立候補したけど、ヴィオがにっこり微笑んで、
「僕やキサを守ってくれた騎士達に街を案内して貰ってから、いつも力になってくれる神殿へ行くので準備しておいてくれ」
なんて大人なことを言うので、それ以上何も言えなくなってしまったのか、神官長さんは頷いて帰って行った。
ロベルク団長さん自らが街へ案内してくれる事になり、騎士さん達も護衛に加わって、なんだか大ごとになってしまったなぁってちょっと申し訳ない‥。一方のヴィオは騎士さん達と一緒に回れるとあって嬉しそうだけど。
ニケさんがそんなヴィオを見て、
「‥一応、俺も騎士なんだけどねー」
って、呟くのでベルナさんと笑ってしまった。
そうなんですよね、小さい頃から一緒だからつい忘れちゃうのかも??
それにしても、神官長さんにあんな風に話すなんてヴィオ、大人になったなぁなんて感心していると、私を見て、
「‥言っておくけど、僕もう大人だからね?」
「そうですね、大人ですねぇ」
クスクスと笑ってヴィオを見上げると、ちょっと拗ねた顔をしたヴィオに「絶対思ってない」って言われてしまった‥。そ、そんな事ないよ?
そんな会話をしている私達をロベルク団長さんが可笑しそうに笑って見つめると、
「いや、助かりましたよ。神殿に予算を回して欲しいとよく言われましてね」
「え??そうなんですか??」
予算‥。
まぁ、確かに国や会社にもそんな予算はあるだろうけど‥、
そういうのって、国が決めたことだから、神官長さんがいう話じゃないと思うんだけど‥。ボソッと呟くと、ロベルク団長さんが驚いた顔をする。
「異世界の乙女は政治について勉強されたことが?」
「少しですよ?仕事も少ししていましたし‥」
「なるほど、それで‥」
ヴィオはそんな会話をしている私を見て驚いた顔をしている。
「キサ、働いてたの?」
「え、まぁ。あ、そう言えば話していませんでしたっけ?」
「それも知らない‥」
「まぁ、会ってまだ1年ちょっとですから‥」
「でもまだ知らない事ある‥」
シュンとするヴィオにロベルク団長さんが可笑しそうに笑う。
「神殿では堂々としてらっしゃったのに、キサ様と一緒にいる時は大分違うんですね」
こっちが素なので‥とは言えず、つい曖昧に笑った。
ロベルク団長さんは、街中を歩きつつ、遠くを見つめて‥、
「先ほどのテレッサ神官長は、シルヴィオ様が成長なさってからこちらの神殿に異動してきた方でして、シルヴィオ様のお顔をよく知らなかったのかもしれません。それにしてもいくらシルヴィオ様が幻獣として成長されたとはいえ、急に予算を回せなど‥。こんな事は今までなかったので戸惑ってましてね‥」
ああ‥上司が変わると急に変化するのってよくありますね。
私が頷くと、ロベルク団長さんは小さく笑って、
「ですので先ほどのシルヴィオ様のお言葉、嬉しかったです。平和がもちろん一番ですがね」
う、うわ〜〜。
やっぱり騎士さんって格好いいなぁ。
ヴィオもそう思ったのか、私が「素敵ですね」って話したら、
「僕の国の騎士だもん!!」
自分の事のように誇らしげになるヴィオ。でもそうだね、一生懸命ヴィオもこの国を守ってるもんね。私が笑って頷くと、ヴィオは嬉しそうに尻尾を揺らした。