幻獣様は、乙女が一番。4
私とベルナさん、ロベルク団長さんは訓練場の一段高い場所に置いてある椅子に座って、甲冑に身を包んだヴィオを見ている。
剣をニケさんから渡されて、いつものように素振りをしているけど、
大丈夫なのかな‥。
ニケさんが試合の審判を務めるらしくて、さっき自己紹介してくれた騎士さんの一人も甲冑に身を包んで、剣を構えた。
シンと空気まで静まって‥、
私はごくっと唾を飲む。
「「始め!!」」
ニケさんがそう合図を出すと、ヴィオの剣はもう振り下ろされて、騎士さんの剣を思い切り斜め下に打ち落とす。
剣が地面に落ちそうになったかと思うと、騎士さんはそのまま振り落とされた剣の方へと体の向きをクルリと変え、再びヴィオに斬りつけようと下から剣を振り上げようとしたけれど、ヴィオの動きが段違いに早かった。
剣がヴィオの体に届く前に、ピタッと首元に剣の刃を騎士さんの首元で寸手の所で止めた。
瞬間、ワッと騎士さん達から歓声が上がる。
え、勝ったの??勝ったって事でいいんだよね??
ベルナさんと、ロベルク団長さんを交互に見ると、ロベルク団長さんはニカッと笑って、
「いや、なかなか筋がいい!!幻獣様には勿体ないですな」
「‥それを聞いたら本人ものすごく喜びますけど、神官さん達は倒れちゃうかもです」
私がそう言うと、ベルナさんとロベルク団長さんが同時に吹いた。
ついでに言えば、私の心臓がいくつあっても足りないと思う。
あんな風に剣を振るう姿は格好いいけど、怪我をしたヴィオの姿を見たら‥、想像しただけで足がすくんでしまう。
負けてしまった騎士さんに「お前、すごいな!」って言われて、ヴィオはなんだか少年のように目をキラキラさせて喜んでいる。ああいう姿を見るとすっかり体は大人なんだけど、心はまだまだ少年だなぁって思って可愛くて‥、微笑ましくなる。
次は俺だ!!とばかりに騎士さん達が出てきて、
その度にヴィオは打ち負かしていく。
騎士さん達の動きも相当早いんだけど、ヴィオの動きがそれを上回るんだよね。やっぱり小さい頃からの訓練が大きいのかな。それとも幻獣様だから???ロベルク団長さんがじっとヴィオの動きを見て、
「ニケは随分と教え込んだようですね」
「そうなんですか?」
「足捌きとか、体の使い方がとても上手です。咄嗟の判断も動きもいい」
べた褒めだなぁ。
なんだか自分の事のように嬉しくて、頬が緩む。
と、試合が終わったのかヴィオが兜を取って、
私を見上げると人懐っこい笑顔で私に手を振る。
「「キサ〜〜!!見てた?格好良かった?!」」
こ、声が大きい〜〜!!!
一斉に騎士さん達やロベルク団長さん、ベルナさんまで私を見るので顔が赤くなってしまう。
ワクワクしたヴィオが私の言葉をじっと待ってこちらを見ている。
これ、言わないとダメな感じ?
どうしよう〜〜!!
「か、格好良かった‥です‥」
後半、声が小さくなってしまったけど、言ったとも!!
頑張って言ったとも!!
騎士さん達が自分の事のように喜んでくれて、ヴィオの頭や体をバンバン叩きながら「良かったなぁ!!」って言うので、私はもうあの重そうな兜を頭から被ってしまいたくて仕方なかった‥。
恥ずかしいよ〜〜!!
ベルナさんの影にちょっと隠れると、ホッとする‥。
ヴィオが来るまで隠れていようと思ったら、甲冑を着たままヴィオがこちらへやって来る。
「「もう!キサ、最後まで僕を見てて!!」」
「見ましたよ〜〜!!今ちょっと恥ずかしくてですね!?」
私がそう言うと、ヴィオはちょっと目を丸くしてから、にこ〜〜っと笑って私を見る。
「格好いいから?」
「‥それはさっき言いました」
「いつもより、格好いい?」
それはできればベルナさんやロベルク団長さんの側にいない時に聞いて欲しい。私はヴィオの持っている兜を指差して、
「‥被せてくれたら答えます」
そう言ったら、ヴィオは嬉しそうに笑って、
「顔が見たいからダメ!」
って、答えると私の頬にサッとキスして騎士さん達のいる方へ戻っていった。って、ヴィオ〜〜〜!!!はしゃぎ過ぎです!!!真っ赤な顔で固まる私に、ベルナさんがストールを頭に被せてくれた。うう、優しさが沁みる!!