幻獣様は、乙女が一番。2
今回は中庭から転移で行く事になった。
私は神殿の白いワンピースに以前アイムさんに貰ったケープを着て、ヴィオは紺のシャツの上に同じようにアイムさんに頂いた銀のコートを羽織る。
「は〜!!楽しみだね!!キサ」
「は、はい‥」
ものすごーくワクワクしているヴィオを、マルクさんは心配そうに見てる。
うん、そうだよね、行くまでの2日間‥、神殿のお祈り以外、ヴィオはずっと剣の訓練してたもんね。
ベルナさんが「必ずお守り致します!!」って言ってくれて、ようやくマルクさんはホッとした顔をしていた。すみません、うちの幻獣がご迷惑をお掛けします。
「じゃあ、マルク!行ってくる!」
「どうぞお気をつけて‥」
ものすごいえらい大神官様なのに、ヴィオに振り回されて本当に大変そうだ。私も手を振るとちょっと笑って振り返してくれた。
「キサ、行くよ」
「うん」
ヴィオの大きな手を握ると、転移の魔法が発動する。
ぐわっと体があちこち引っ張られたかと思うと、地面に足がトンとついた。
「キサ、着いたよ」
ヴィオの声で目を開けると、大きな石造りの二階建ての建物が見えた。
二階建ての建物のちょうど真ん中に銀色の狼の紋章のようなものが壁に埋め込まれていて、なかなかに格好いい。
「ここが神殿なの?」
「「ううん、騎士団!!」」
「っへ???神殿にお祈りじゃないの??」
私がヴィオを見上げてそう話すと、ニケさんがニヤニヤしながらヴィオの横から顔を出して‥、
「神殿に先に行ったら、シルヴィオが幻獣だってバレちまうだろ?騎士団の大半は顔を見てないし、正体を隠して訓練させたらおもしろ‥もとい、良い経験になると思うんだ!!」
今確実に面白いって言ったでしょ〜〜!?
私はニケさんとヴィオをジトッと見る。
「二人して企みましたね?」
そう話すと、ヴィオが慌てて「騙すつもりはなかったよ!」って言うけど、
「どう思います?ベルナさん?!」
ベルナさんを見ると、ニコッと微笑んで‥、
「これで何かあればニケの方で全面的に責任を取ってくれる上に、街へ案内した暁には皆に食事をいくらでも奢ると言う事だそうです」
「う〜〜ん、じゃあ、仕方ないですね」
私がそう話すと、ニケさんが慌てて私を止めるけど、ヴィオは満足げに頷いた。まったくもう‥うちの幻獣様と来たら。
「ヴィオも何かあったら、私とベルナさんに色々奢って下さいね!」
「「うん!!キサ、何を食べたいの?一杯食べようね!!」」
嬉しすぎて、まるでダメージを食らっていないな‥。
繋いだ手をぎゅっと握って、ヴィオの体を10歳くらいにした。
「「あ!!キサぁ!!これから訓練なのに!」」
「直前で戻します。もう!ちょっとは反省して下さい!!」
「ヤダ〜!!ヤダヤダ!!いつもの姿で訓練場まで行く!!」
「じゃあ、もう騙しちゃダメですよ!?」
「・・・・・・・・うん、多分」
やっぱり戻すのやめようかな。
そう思ったのが分かったのか、ヴィオは慌てて「もうしない!!」と言うので、元に戻した。まったくもう!!
ちょっと拗ねた顔をしたヴィオと面白そうに笑うニケさんと、ベルナさんで騎士団の中へと入って行く。執務室にいる騎士団長さんにまずは挨拶だそうだ。
「失礼します!パルマ神殿の騎士、ニケ・トライン入ります!」
大きなしっかりとした造りの扉に向かってニケさんがそう言うと、中から「入れ」と言う声が聞こえて、扉が開く。
室内へ入ると、しっかりした石造りの壁に暖炉があって、
その側に黒髪で、顎髭のあるキリッとした男性が本を読みつつ、立っていた。
「「ロベルク団長、ただいま戻りました!!」」
ニケさんが敬礼してそう言うと、ロベルク団長さんはこちらを振り向いて、ニヤッと笑った。
「おう、そっちが騎士希望の坊ちゃんか!」
「は!今日は一緒に訓練に参加したいとの事で連れて参りました」
え?ま、まさか騎士団長にも幻獣って言ってないの?!
心配になってヴィオを見上げると、軽くウィンクして見せたけど、それはどっちなの〜〜???ベルナさんを慌てて見ると、
「「全部ニケのせいにしましょう」」
とても素敵な笑顔でそう話すので、とりあえず頷いておいた。
‥けど、いいのかな?