幻獣様と世界と乙女。8
飛びながら、魔の者がこっちを捕まえようと手が伸びてくる。
「わわ!!!」
手を繋いでいるけど、思わず慌ててしまうと、ヴィオが私の体をギュッと抱きしめる。
「ごめん、ちょっと捕まってて!」
「は、はいぃいい!!!」
ヴィオにギュッと抱きついているけど、大分恥ずかしい。
とはいっても、あっちからもこっちからも魔の者が手を伸ばしてきて、それをくぐり抜けるように飛んでいくので、あまりの速さに目が周りそうだ。
と、魔の門からゴゴッと低い音がする。
大きな門はさっきは閉まっていたのに、扉がゆっくり開いていくのが目に入った。
スメラタさんが急いで魔法で扉が閉まるようにぶつけるけれど、ビクともしない。
他の神官さん達や、ターシェさん、アイムさん、レオルさんも魔法をぶつけるけど、扉はどんどん静かに開いていく。
ま、まずい!!
ヴィオが、金色の力で扉を閉めようと手を向けたその途端、
私とヴィオだけが魔の門に、思い切り吸い寄せられていく。
ものすごい力が働いているのか、私もヴィオも宙に浮いているだけで手一杯だ!!
「え、な、なんで…!!?」
「キサ、しっかり掴まって!!!」
ギュッとヴィオの体に抱きついた途端、
門の中へ私とヴィオは引っ張られるように吸い込まれ、扉がゴゴッと音を立てて閉まった。
し、閉まっちゃった〜〜〜!!!??
私とヴィオは宙を浮いたまま、閉まってしまった扉の方をみる。
辺りは真っ暗で、なんの音もしない。
さっきまであれだけ、魔の者がいたのに‥。
ふわふわと浮いているヴィオを見上げると、ヴィオもおかしいと思っているのか周囲を伺っている。
「おかしい‥、なんの気配もしない」
「魔の門って、魔の者が住んでいる場所に通じてるんですか?」
「そこも分からないらしい。でも、魔の穴と違って、いくつか違う気配がする」
違う気配??
私がヴィオを見上げると、ヴィオが私を抱きしめて周囲を見る。
「真っ暗なんだけど、あちこちから違う世界の気配がするんだ」
「違う世界‥?」
「神様の世界の気配もするし、キサの世界の気配もする」
そういって、私を抱きしめたまま気配のする方へ飛んでいく。私からすれば、ただ真っ暗な世界なのに‥不思議だ。ふと暖かい気持ちになる場所もある。
「確かに、真っ暗な世界なんですけど、怖さを感じませんね」
「うん、もしかして魔の門って言われてるけど、色んな世界に通じる門なのかもしれない‥」
なるほど。
それなら納得がいくかも。ヴィオは、ふわふわ飛びながら、ある一点を見つめる。
「なんか、あそこから呼ばれている気がする」
「‥行ってみましょう」
「うん、一緒にいるからね。キサ」
うーん、少年のヴィオに微笑まれると、なんというかこんな時でも本当に和む。大人だったら、真っ赤になっちゃうから、助かるわ。
ヴィオとそのまま気になる場所へ飛んでいくと、
途端に目の前が眩しく光る。
こ、今度は何だ〜〜!!???
「キサ!」
ヴィオの声に、そっと目を開けると‥、
目の前には、大きな空がいっぱい広がって、その下を見るとジャングルが広がっているけれど、中央に円形の滝が見える。その滝が流れている底の辺りに何かがチカチカと光っていて、それが私達を呼んでいる気配がした。
「‥行ってみよう。嫌な気配はしない」
「はい!」
ヴィオはそう言って、真っ直ぐに円形の滝へと進み、底深く水が流れていっている場所へと一緒に降りていく。
水飛沫と、水の流れる音が大きくて、ヴィオの声も聞こえない。
しかも、ビショビショだ。
やがて、底の方へとゆっくり降りていくと、真ん中にポッカリと円形の岩場があって、その周りに水が流れていっているのが見えた。
「‥あれだ!」
円形の岩場の上に、チカチカと光っているのが見えて、私達はその近くにそっと足をおろした。