幻獣様と世界と乙女。6
倒れてしまったマルクさんは、ニケさんが急いでソファーに寝かせる。
ベルナさんが付き添ってくれて、ちょっと安心だ。
小さなヴィオの隣に座ると、スメラタさんや皆は椅子に座って顔を見合わせる。
「ここの所、魔の力が強まっていると思ったが、まさか魔の門が出現するとは‥」
レオルさんが深刻そうに話すと、スメラタさんはヴィオを見る。
「いや、ある意味予想はできた。シルヴィオが注意深くロズとダズを見ていてくれたから、早くに発見できたんだ。まだ魔の門は出現しただけで、開いていない。すぐに全員で取り掛かれば、なんとかなるだろう」
そう言って、スメラタさんは私の顔を見る。
「‥キサの力は何か変化は?」
「あ、ヴィオが言うには、金色の力になっていると」
「そこも幸運だったな‥。いや、ある意味神の計画通りなのかもしれない‥」
スメラタさんがそう言うと、ターシェさんが顔を曇らせる。
「どういうこと?計画通りって‥」
「キサが来るタイミングで、魔の門が出現したという事は、我々だけでは力が足りないからなのかもしれないと思ってな‥」
スメラタさんの言葉に、ターシェさんが椅子をガタッと立ち上がる。
「キサを連れて行くの!?危険だよ!!」
「え、いえ、ターシェさん、多分大丈夫‥」
「「大丈夫じゃなかったら、どうするの!?異世界の乙女はこの世に一人しかいないのに!!」」
ターシェさんの剣幕にちょっと驚いてしまうと、レオルさんがターシェさんの背中を優しく撫でる。
「‥ターシェは異世界の人間を大事にしていたからな‥」
そういえば、好きな人に素直になれたら‥なんて話してたけど、その人の事?でも、異世界の人は寿命があるよね?ターシェさんは、レオルさんを見て‥ちょっとむすっとした顔をする。
「皆、大事だったでしょ?!忘れてないくせに!!」
ターシェさんがガタッと椅子に勢いよく座り直すと、皆顔を見合わせる。
‥私とヴィオが結婚した際に言ってたな。「皆、一度は異世界の乙女に恋する」って‥。
私は知らないそれぞれの異世界の乙女との関わりがあったんだろうな。
そして、大事に想っている‥
なんだかそれがすごく嬉しかった。
一年しかいなかった相手を大事に想っているからこそ、ヴィオとの結婚に賛同して名前を書いてくれたんだと思うと、胸がじんわり暖かくなる。
「ターシェさん、ありがとうございます。私は大丈夫。この為に来たんだったら、嬉しいです」
「なんで!?こっちの世界の都合でキサは‥」
そういうと口を噤む。
ヴィオが私の手を握って、私を見上げるけど‥、すごく辛そうな顔をする。
きっと、自分達のせいで巻き込んでしまうとか、
何かあったらどうしようとか、
色々考えてくれているのが分かる。
こっちへ突然連れてこられて、悲しくないと言ったら嘘になるけど‥、苦しんでいる人達を心配して、命を狙われていたのに、力を削ってまで助けようとしているヴィオの優しさを私は知っている。
知ってしまったからこそ、私も助けたい。
「ヴィオに会えて、私は嬉しかったですし、今もこれからも一緒にいたいです‥」
「キサ・・」
「‥皆さんも大好きなので、一緒にいたいです。力になれるかは分からないけど、助けになりたい、です」
私は幻獣の皆の顔を一人一人見て、最後にヴィオを見つめる。
泣きそうな、嬉しそうな顔をしてヴィオは私を見る。
「キサは、優しすぎるよ‥」
「え?そ、そうですか???」
ヴィオはぎゅっと私の体を抱きしめる。
小さな腕は十分に体を包めないけど、大きなヴィオに包まれているような気分になる。
「‥一緒に行きます」
「うん‥、絶対守るね」
ヴィオの言葉に頷くと、嬉しそうに微笑んでくれて‥、私は顔をあげると幻獣の皆も嬉しそうに微笑んでくれた。なんだか照れ臭くて顔を赤くして俯くと、ヴィオがボソッと・・
「僕のお嫁さん、世界一可愛い」
って、照れるから!!!控えて下さい!!!