幻獣様と世界と乙女。2
お茶をしつつ、今回向かう場所の話を聞く。
レオルさんは、最新作のチーズスフレケーキを食べつつ、
「今回行くのは、森の民の住んでいる場所から更に北にある滝なんだ。どうも水源となっているその場所が穢れて、そこから大地、木々、そして水が穢れているのが分かった」
「かなり広範囲なんですね・・」
ヴィオは驚いた顔をする。
この間パルマの神殿まで離れている湖を浄化した時は、場所は離れていたけど、土地までは穢れてなかったもんね。スメラタさんはカップをそっとソーサーに置き、
「なぜ、こんなに広範囲なのか‥、あと最近、穢れや「魔の者」の出現が多いのも気になっている」
「え?そんなに多いんですか?」
私が意外そうな顔をすると、スメラタさんもレオルさんも頷く。
そ、そうなんだ‥。確かにアイムさんも「魔の者」が出てきた時、滅多にないって言ってたもんなぁ。ヴィオは少し考え込んで‥、
「今度のお清めの時、ロズとダズの様子を注意深く見てみます」
「そうだな、守り月の時はよく見えるから‥、すまないが頼む」
スメラタさんがヴィオにそう言うと、ヴィオは静かに頷く。
守り月って、そういうのもできるんだ‥幻獣様の世界は、まだまだ知らない事だらけだ。
そうして、お茶を終えると早速、滝へと転移魔法で向かう。
鬱蒼とした森の中は、周囲がまだ昼間だというのに薄暗い‥。
穢れているというのが、私でも分かるくらい黒いもやがあちこち飛んでいて、ゾクッとする。
思わず手を繋いでいるヴィオの手を強く握ってしまう。
こ、これは‥本当に怖いんですけど?
そう思ってヴィオを見上げると、ぱぁ〜って嬉しそうな顔をして尻尾を揺らすヴィオさんが‥。
「‥ヴィオさん??なぜ、笑顔???」
「「キサが手を繋いできてくれたから!!!キサ、怖くないからね!!」」
「‥おい、そこの夫婦、仕事だからな。仕事!」
「うるさいな〜〜、ニケは。分かってるよ」
ちょ、ちょっとヴィオさん!!??
ヴィオさんも慎もうか!!
赤い顔をして、思わず手を離そうとするけど、強く握りかえされて「離れるのは許さない」とばかりにヴィオが笑顔で止めた。‥笑顔で止めるのか〜‥。
諦めて、赤い顔のまま滝の方を向くと、スメラタさんが小さく笑って、
「ようやく夫婦になれたから嬉しいんだ、諦めろ」
「え!!な、なんで知って!!??」
「それだけヴィオが笑っていれば、分かるだろ」
う、うぁああああ!!!冷静沈着なスメラタさんにまでそんな事を言われてしまって、照れ臭いんだけど!!ヴィオさん、顔!!顔を引き締めて!!!
ちょっと可笑しそうに笑うレオルさんが、滝を指差し、
「まずヴィオが水を浄化して、その次に私が土、最後にスメラタ植物を頼む」
皆が一斉に頷いて、ヴィオがまず滝に向かう。
水は一見綺麗だけど、よく見ると黒いもやに包まれている。
ヴィオが私を離して一人で向かおうとしているけど、胸が嫌な予感でいっぱいになって、咄嗟に手を握る。
「キサ?」
「今‥、手を離しちゃいけない気がして、あの邪魔をしないので、一緒に…」
ヴィオは、ちょっと迷った顔をしたけれど、
静かに頷いて私の手を握り返す。
「何かあったら、すぐ逃げてね」
「はい」
私も頷いて、二人で滝の前に行く。
ヴィオが滝に向かって、手を向けて淡い光を出すと、滝の周りに飛んでいた黒いもやが少しずつ消えていく。真剣な横顔を見て、嫌な予感は気のせいだったかな?そう思っていると、その滝の真ん中が突然真っ黒い穴のようなものが現れて、驚いて目を見開く。
「シルヴィオ!魔の穴だ!!離れろ!!」
スメラタさんの鋭い声がして、私とヴィオが滝から離れようとすると、瞬間、魔の穴から黒い塊が飛び出してくる!
べちゃっと水音がして、飛び出してきたそれを見ると、
黒いもやを纏って虎のような形をしている事に気付く。も、もしかして‥「魔の者」???急な出現に、驚いて動けなくなってしまった。