幻獣様は大事にしたいし、愛したい。
夕方、レオルさんに頼まれた花に水をやりに行く。
足取りは‥、それはもう重い。
屋上の下の部屋にいるはずのキサに会いたいのに、時間が経つにつれて、会うのが怖くて‥最近は部屋に戻るのは深夜だ。
些細な言い合いが発端だったんだけど、プイッと横を向かれた時、あまりにもショックで‥、もし本当に嫌われてたら、それどころか結婚も、顔も見たくないって言われたらどうしようって思ったら、会うのが怖くなった。
ニケやベルナには、口酸っぱく「早く会った方がいい」「すぐ謝った方がいい」と顔を合わせれば言われるんだけど、本当に情けない‥。
こんな情けない幻獣なんて、きっと今までいなかっただろう。
屋上に上っていくと、レオルさんの鉢の花が夕陽に照らされて、ゆらゆらと風で揺らめいている。
こだま花。
というこの花は、僕がいった事をこだまするかのように囁く。
清めた水を花にあげつつ、僕は今日も花に囁く。
だって‥神様や他の幻獣達にいう内容じゃないし。
「‥キサ」
会いたい。
会って抱きしめたい。
ごめんねって謝って、ぎゅっと抱きしめたい。
嫌わないって約束してくれたけど、いなくなったら‥、離れていってしまったらって思ったら怖くて、辛くて仕方ない。
『ヴィオ』
花の言葉に、不意に顔をあげる。
え??今、ヴィオって言った??
その呼び方は、キサしかしない。いや、キサだけしかさせない。
僕は花をじっと見て、次の言葉を待つ。
『ヴィオ、好きですよ』
『結婚して下さい』
『愛して、ます』
目を丸くして、夢じゃないかって顔をつねった。
痛い‥。夢じゃ、ない‥?
『ヴィオ、会いたいです』
勢いよく立って、キサのいるであろう部屋へ走っていく。
本当に??
本当に好き?愛してる?結婚してくれる??
僕、都合のいい夢を見てる??
もし夢だったら、きっと泣いて、泣いて、しばらく神殿に籠って外に出ない!!
階段を飛び降りて、驚いた顔の騎士さんの前を通り過ぎて、部屋の扉を勢いよく開ける。
驚いた顔をしたキサがベッドの上にいて、嗚呼、一週間ぶりだ。元気そうで良かった‥と最初に思った。胸がドキドキして、キサの側に行くだけで顔が赤くなっていく。
お願い、嘘だと言わないで。
夢でもありませんように。
「‥花に、喋った?」
胸が痛い。
ドキドキして、怖いくらいだ。
キサは小さく笑って、
「喋りましたねぇ」
って、僕が小さい頃から変わらない‥、のんびりした口調で話す。
「本当に、いいの?」
嫌って言わないで。
好きって言って欲しい。期待と、不安で胸の中がグルグルと渦巻いている。
「‥結婚、してくれるの?」
「っていうか、もうしているんですよね?」
ちょっと可笑しそうに笑うキサを見て、嬉しいのと、本当だよね?嘘じゃないよね?って気持ちがまだ胸の中にあって、嘘じゃないと確信したくて、キサをぎゅっと抱きしめる。
キサの柔らかい手が背中に回されて、ぎゅっと抱きしめ返してくれて‥
嬉しくて、本当なんだ!
夢じゃないんだ!!
そう思ったら、キサの唇に何度もキスしてた。
大好き!!嬉しい!!ねえ、もっと僕を好きになって!と、ばかりに想いをのせて、キスする。真っ赤な顔のキサは可愛くて、やっと僕のお嫁さんになってくれたって思うと、嬉しくて仕方ない。
「‥あ、愛してます、結婚‥して下さい」
キサの言葉に、嬉しくない訳が無い。
僕がどれだけキサを愛しているか、今こそ知って欲しい。ねぇ、キサ、僕ずっと待ってたよ。
本当に愛しているよ。
その気持ちを惜しむ事なく、余す事なく、全部伝えようと思って、キサの体をぎゅっと抱きしめる。だって、僕の愛は一晩じゃ伝えきれない。ずっとずっと伝えるからね!!