幻獣様のお願いごと。
神様に、「パルマの国を守ってきなさい」と言われたのはぼんやり覚えている。
そうして、大神官のおじいちゃんのマルクの所へ行ったのに、突然苦しくなって、ご飯が食べられなくなった。なんでも「異世界の乙女」が見つからないらしくて、僕はこのままだと死んじゃう‥と、神官さん達が心配しているのを、ベッドの上でぼんやり聞いていた。
魔力を流してもらっている間は、少し苦しくないけど止まった途端に苦しくて、神様に守ってきなさいって言われたけど、もう無理だと思っていた。
そんな時‥
「か‥、可愛い!!!」
頭の上で声が聞こえて、その途端息が苦しくない!体が重くない!という事に気付いた。目を開けると、髪が短い女の人が笑顔でこちらを見ている。
もしかして「異世界の乙女」‥?
僕を助けに来てくれたの?
そう思って膝に飛び乗ると、体がすごく温かくて、気持ちがいい。
女の人はキサという名前だと、腕の中でうたた寝しつつ聞いた。
キサ‥、綺麗な名前だなぁ。
ずっと腕の中にいたくて‥気持ちよく寝ていたけれど、着替えようとしているのに気が付いて、ベッドに下りてあげるとすごく驚いてた。
そんなの簡単な事なのに褒めて頭を撫でてくれて、驚いてキサを見たら笑っていて‥。白いワンピースを着て、裾をヒラリと揺らすキサが可愛いなぁって思った。
異世界に来て、ちょっと疲れていたキサと一緒に昼寝して、ご飯を食べて‥、僕がじっとキサを見ると、話していないのに、キサは膝に乗りたいとか、抱っこして欲しいって分かるみたいで嬉しかった。ただ側にいるだけじゃなくて、色々してあげたいって言うし‥、僕の「異世界の乙女」は優しいなぁって思った。
お風呂は入った事がなかったから、怖くてちょっと嘘ついちゃったけど、キサが優しく洗ってくれた。
でも、あの後キサを待ってたら、タオル一枚で出てきた時は、びっくりして恥ずかしくて、倒れちゃった。もう!キサは可愛いから、僕がちゃんと守らないと!!
そう思った翌朝、知らない人がいたから
キサを守ろうとしたのに、キサは僕を守ろうとした。
違うのに!僕が守るのに!!
ベルナは、名前を聞いて思い出した。
そうだ、魔力を流してくれた人だ‥。あの時は苦しくて、目も開けられなかったから。こんな顔だったんだとちょっと見てから、キサに抱っこして貰った。だってキサは僕のだし。
ご飯を食べた後は、すぐにキサの膝の上に乗る。
前の異世界の人も、色々してあげていたらしい。でも、まだ僕が小さいから危ないんだって。キサが僕をぎゅっと抱きしめて、守るからね!って言ってくれるけど、僕が反対にキサを守るよ。
早速中庭に行って、綺麗なお花を嬉しそうに見るキサ。
キサに似合いそうな白い花をそっと口で咥えて持っていくと、嬉しそうに喜んでくれて‥、それだけで僕もすごく嬉しい!!それなのに‥
「一年後にはお別れしちゃうのかと思うと、寂しいですね‥」
え?
お別れ‥?
僕はずっといたいのに‥?
ビックリしてキサを見上げると、心配そうに僕を見て撫でてくる。
嫌だ、行かないで、ずっとそばにいて。キサとずっと一緒にいたい‥そう言いたいのに、上手く言えなくて‥。でもキサが抱っこしてくれて、ちょっと安心した。
しばらくしてお話できたら楽しいだろうなぁって、キサが話してて‥。
実は話せたんだけど、驚かしちゃうと思って黙ってたんだよね‥、そう言うなら話していいかな?でも、驚かせたいと思って朝早く起きて、キサの好きなお花を咥えて行ったら、真っ青な顔のキサが僕を探していて。
慌てて「キサ」って声をかけたら、
話しをした事にも驚いていたけど、僕がいきなりいなくなってしまった事に驚いて、泣いてしまった‥。僕、泣かせたかった訳じゃないのに・。
でも、嬉しそうにお花を受け取ってくれた。
あと、名前!!!
ずっと言いたかったけど「シルヴィ」か「ヴィオ」って呼んで欲しい!
そう思ってた事をやっと言えた!!
二人だけの秘密。一緒にいる時だけ「ヴィオ」って呼んで貰える事になった!!
僕はキサに「大好き!」って伝えると、キサはお礼を言ってくれたけど、分かったのかな?僕、本当にキサが大好きなんだよ?でも、頬ずりされた時は嬉しいのと恥ずかしいので、体が固まってしまった‥。キサはちょっと大胆だ。
1ヶ月経って、お祝いをする日。
朝からキサはいないし、僕はジャラジャラと色々付けられるし、マルクに文句を言っていたら、キサがやってきて驚いた。
あんなに綺麗だなんて‥聞いてない。
いつもは優しい顔なのに、綺麗にお化粧されて、
口紅もして、香水の匂いもする。
あんまりにも綺麗で、言葉が全然出なかった。
綺麗とか、もっと色々言いたかったのに、「素敵」しか言えなかった‥。だって、すごく綺麗で顔がうまく見えない。
そんな僕を、式典の時「格好良い」って言ってくれて‥、
嬉しくて、もっと格好いいって言って欲しいから頑張ろうって思った。
お茶をいつかキサと飲んで、
遠い所まで散歩して、
それで、ずっと一緒にいたい。
「ずっと、ずっと一緒にいてね」
僕は願いを込めるように、キサに話をした。
お願い、一年後に何処かへいかないで、ずっと、ずっと一緒にいて。
約束して‥。