幻獣様は大事にしたい。5
レオルさんの持ってきたお花を見て、私もぼんやり風に吹かれる。
‥ヴィオが急に成長して、‥格好良くて、優しくて、時々過剰に心配して、小さいヴィオを知っている私としては戸惑いの連続だった。
ストレートに「大好き」って言われて嬉しかった。嬉しかったけど‥、ヴィオにとって私は最初に側にいてお世話をしていたから、そう思っているだけで、本当は私じゃなければ‥、その人を選んだんじゃない?って考えが時々頭をかすめて‥。だから、結婚していた事実をヴィオに「知っている」と言いたいのに、その思いがストッパーになっていたんだと思う。
「‥‥結局、私が臆病だから」
自分が傷つきたくないから‥。
ニケさんはヴィオを「お子ちゃま」っていうけど、むしろダメダメなのは、私なんだと思う。怖いくせに、ヴィオに会いたい。話したい。全く私ってやつは。
「‥ヴィオ‥」
ボソッとお花に呟くように囁くと、
花がふわっと揺れて、
『キサ』
と、呟く。
え!??花が喋った!??驚いて、花を見て・・
「喋れるの‥?」
そう聞くと、花はまたふわふわ揺れて、
『嫌いって言われたらどうしよう』
『キサに謝りたいのに、なんて言おう』
『今日も会いたかったのに、会えなかった』
『会いたいのに、怖い・・』
風に揺れる度に、花が喋る。
喋るけど‥、これってもしかしてヴィオの呟いてるのを話してる???
『キサ、好き‥』
途端に顔が赤くなった。
横でいつもヴィオに言われているみたいで、胸がぎゅうと締め付けられる。
子供だって思ってたのに、いつの間にかグンと大人になって、そのくせ、ものすごく子供のように不器用で‥。小さな頃から私を一心に求めて、今だって同じように好きだと言ってくれるヴィオ。こんなに好きにさせておいて、自分は嫌われたらどうしようなんて‥。
「‥もう私だって怖かったのに‥」
花を見つめて、私も言葉を囁いてみる。
これを聞くのはいつかな?
そう思いつつ、何度も覚えてもらえるように花に囁いてから私は屋上を後にした。
夕方。
私は部屋のベッドの上で、スメラタさんに貸してもらった分厚い歴史の本を読んでいる。
今日はもう無理かなぁ。
会えないかなぁ。会いに行こうかなぁ。
ちょっとそわそわしていて、本の内容が頭に入ってこない。
花がちゃんと話せるかどうか分からないしなぁ‥。今日はもう会えないかもしれない。花がダメなら手紙を書いて置いておけばいいかな?
そう思っていると、ダダダ‥とものすごい足音が聞こえて、部屋の扉が勢いよく開かれる。
扉を開けたのはヴィオで、1週間ぶりに会うけど、ちょっとやつれてない???だ、大丈夫??はぁはぁと息を切らして、私の方へ息を整えつつ歩いていくる。
「‥キサ」
「はい」
「‥花に、喋った?」
「喋りましたねぇ」
「本当に、いいの?」
「確認しに来たんでしょ?」
私は笑ってヴィオを見上げると、ヴィオが泣きそうな、でも嬉しそうな目で私を見つめる。
「‥結婚、してくれる?」
「っていうか、もうしているんですよね?」
そういうと、ヴィオは切なそうな顔で私をぎゅうっと抱きしめる。
ああ、ヴィオだ。
一週間ぶりのヴィオだ。嬉しくなって、私も背中に手を回してぎゅっと抱きしめ返すと、そのままベッドに押し倒された。ちょ、ちょっと!!??
「ヴィ・・」
言いかけて、ヴィオがチュッと音を立てて何度もキスをしてくるので、言葉にならない!ちょ、ちょっと待って!私は言いたい事が‥、そう思うのに、ヴィオのキスがどんどん深くなっていく。
唇を不意にペロッと犬のように舐められて、ビクッと体が跳ねる。
ヴィオは目元を赤くしつつ、私をじっと見て、
「‥キサ、結婚したいって花に言ったよね?今は?」
「さっき言ったじゃないですか、もうしているんでしょ?」
「‥愛してる?」
「それも言いましたよ」
お花にだけど‥。
ヴィオは私の髪を優しく指で梳かしつつ、うっとりした顔で私を見つめる。
「ちゃんと言って、今、僕に」
「‥あ、愛してます、結婚‥して下さい」
「うん!!!!もうしてるけどね!!!」
破顔したヴィオは、真っ赤な顔で告白した私をぎゅうっと嬉しそうに抱きしめて、一週間会えなかった分を埋めるかのごとく、ずっと抱きしめて、沢山蕩けるように触れられて‥、翌朝ヴィオは珍しく私に起こされて、慌ただしく神殿のお祈りに向かっていった‥。