幻獣様は大事にしたい。2
どうやら水の精霊は、ヴィオの力が強すぎて近づけなかったらしい。
そこで弱そうな私に目を付けて、水の中に落ちている呪いの石を取って欲しいとばかりに水に落としたようだけど‥。落とした私がまさか異世界の乙女だと知らなかったのだろう。
ヴィオに説明された水の精霊は、ひょええええとまたも叫んだ。
ぎゅっとヴィオに捕まった姿は、捕食3秒前みたいで、ちょっと可哀想だ‥。
「ヴィオ‥、とりあえずもう離してあげて?私はこの通り大丈夫だったから」
「もう!!何かあってからじゃ遅いんだよ?」
「そ、そうだけど、今回は水の精霊さんもヴィオに話せなかったから、仕方ないよ」
ヴィオは私の言い分もわかるので、ブスーっとしつつも、ようやく水の精霊から手を離す。
と、水の精霊は私の首元にクルッと巻きつき‥
『いやぁ〜〜、異世界の乙女が優しくて本当によかったです』
「‥水に落とされたのは、ちょっと怒ってますよ?」
『なにぶん汚れていると話せなくて‥本当にすみません!』
何気に軽いなぁ〜〜。
水の精霊って、こんな感じなの??
ヴィオはそんな水の精霊にも、私にもちょっと不満げだ。
「‥もう!キサは本当に危なっかしいんだから‥」
「す、すみませんね。でも、おかげで水の問題がクリアしたんですから‥」
「それは結果論でしょ?」
「もう〜〜!!!ヴィオ!!心配してくれるのはありがたいけど、ちょっとしつこいです!!」
プイッと横を向くと、ヴィオがあからさまに傷ついた顔をする。
え‥、だ、だって‥ヴィオがそうやってすぐ怒るから‥。
ヴィオは、「‥わかったよ」と小さく呟いて、ニケさんの方へ行ってしまった‥。え、ど、どうしよう‥。水の精霊は私を見上げて‥、
「乙女さん、ごめん‥。なんかこじらせちゃったみたい」
「‥いえ、これは水の精霊さんのせいじゃない‥と、思う」
精霊さんは「思うんかーい!」ってつっこんできたけど、うん、とりあえずどうしよう‥。水の精霊さんは、ヴィオに何やら話してから私を見て、
「本当、湖の石取ってくれてありがとうな〜〜」
と、言って湖の中へ戻っていった‥。うん、結構気安い感じだけど、嫌いではない。
とりあえず湖は綺麗になったので、騎士さん達は変化がないかを後1日様子見してから戻る事になり、私とヴィオとニケさん、ベルナさんは神殿へ一足先に戻る事になった。
転移魔法の時、ヴィオは必ず私の手を握るけど、
ちょっと目を逸らして‥、
「キサ‥、手を‥」
そう言うので・・、なんだか私もやりづらい。
そっと手を重ねると、いつものように握ってくれるけど、よそよそしくて‥。
神殿に着くと、マルクさんがホッとした顔で私達を迎えてくれて、ベルナさんとニケさんが報告をしてくれて、ニケさんが気を利かせて、
「シルヴィオ様、キサと部屋で先に休めよ」
と、話すと‥ヴィオは、横を向いて、
「‥ちょっと神殿の祈りに行ってくる。キサは、先に部屋に戻っていて」
私をチラリとも見ないで、そう話すので‥、
こっちも戸惑ってしまう。
「じゃあ、そうします‥」
さっきの傷ついたヴィオの顔を思い浮かべると、うまく言葉が出てこなくて‥、プイッと横を向いて、ずんずんと部屋へ向かって行くと、マルクさんが目を丸くして私とヴィオを交互に見る。ごめんねマルクさん!
ベルナさんが慌てて私を部屋まで連れて行ってくれた‥。
「キサ様、シルヴィオ様は心配してらして‥」
「うん、分かってる‥、けど」
心配だから、つい口うるさくなっちゃうんだよね‥。それは分かってる。分かってるけど、今日はつい言ってしまった。私も大概大人気なかったのは反省してる。
だから、後で戻ってきたらちゃんと謝ろうと思ってる‥。
そう言うと、ベルナさんはちょっと安心した顔をした。すみません、色々心配かけて‥。
早めに謝ろう。仲直りしよう‥と、思ってたのに、神殿の中へ行ったきり、私が寝る時間までヴィオは部屋へ戻って来る事がなかった‥。