幻獣様は大事にしたい。1
黒いロープみたいなのに、突然捕まって水に落とされた私‥。
水面に上がったら、ヴィオが私を引き揚げてくれたけど‥、水面って立てるものなの!?私を助けて安心したヴィオがぎゅうぎゅうに抱きしめてくるけど、ちょ、ちょっと待って欲しい。
「ヴ、ヴィオ‥ここ、水の上‥」
「うん、僕、水の上に立てるよ」
「そ、そうだったんですか!??あ、あとヴィオも濡れちゃう‥」
「それは大丈夫。それより怪我はない?」
コクコクと頷くと、小さく微笑むヴィオ。
しかし、腕の中から私を離す気配がない‥。あの、多分あっちの岸で皆さん見てるので‥離して欲しいなぁ〜‥。
「あ、そういえばヴィオ、ロープみたいなのに掴まって、私水の中に落とされたんですけど、黒い石に縄が縛ってあるのがあったんです‥」
「‥黒い石に縄‥」
「ちょうどこの真下かな?」
ヴィオは私の足の下を見て、手をかざすと‥水が途端に二つに別れて‥あっという間に私の足元の水がなくなり、白い砂地の底が見える。
と、黒い石に縄が巻いてあるそばに黒いロープのようなものが、こちらを見上げるように動く。
「あ、あのロープ!と石が‥」
「なるほど‥」
ヴィオはそういうと、手の平を下にかざして、クルッと手の平を返すと‥地面にあった黒い縄の巻かれた石が持ち上がり、ヴィオの手の上に静かに降りてきた。
「‥その黒い石は?」
「これ、呪いの石って言うんだ。相手の場所を穢すものだよ」
そ、そんなの素手で持って平気なの!?
私はギョッとしてヴィオを見ると、小さく笑って‥
「場所を穢すものであって、人には効果はないから大丈夫」
そう言って、私を抱きかかえると石を持って岸の方へと歩いていく。分けられた水は後ろを見ると、ゆっくり戻って‥さっきと同じ水面に戻っていったけど‥、黒いロープのようなものが慌ててこちらへ飛んでくる。
ヴィオはそのロープのようなものをチラッと見て‥、
「お前、後で見てろよ。キサを水の中に落とすなんて‥」
「え?ヴィオ知ってるの???」
「それは水の精霊だよ。汚れちゃって黒くなってるけどね」
水の精霊!?
じゃあ、ヴィオの仲間みたいなものじゃないの??
ヴィオが岸へ着くと、ベルナさんが慌てて私の側へ駆け寄る。
「申し訳ありません!!私が不甲斐ないばかりに‥危険な目に!」
「だ、大丈夫ですから‥ベルナさん」
そ、そんなに謝らなくても‥。
悪いのは多分、ヴィオが睨みつけている水の精霊だと思うし‥。
「ベルナ、これ‥呪い石で間違いないよね?」
ヴィオが、手の上の石をベルナさんに見せると、ハッとした顔をして静かに頷く。
「‥これを投げ入れられていたんですね‥」
「ああ、キサが水の精霊に投げられた際に見つけてくれた」
ベルナさんは、呪い石を受け取ると地面に置いて‥何やら詠唱を唱える。
と、石がパキッと二つに割れたかと思うと、中から文字が石の周りを覆うように浮かび上がり‥思い切り光ると、あっという間に消えてしまった‥。
「‥き、消えた」
私が呆然として呟くと、後ろで他の騎士さん達が、
「水が綺麗になった!!」
「呪い石が割れたからか‥」
と、口々に言っているので、湖を振り返ると‥黒く淀んでいた湖は綺麗になっていて‥、ロープだと思っていたものが急にクルッと回転したかと思うと、薄っすら水色をした蛇に姿を変える。
『幻獣様〜〜!!湖を綺麗にしてくださって、ありがとうございます〜!!!!』
ヒュッと、ヴィオの周りを嬉しそうに飛び回ったかと思うと、ヴィオがガツッとその蛇を掴み・・
「‥その前に、よくもキサを水に突き落としたな‥」
いつもよりも声のトーンがぐっと低いヴィオ‥。
ジロッと蛇を睨むけど、あまりの迫力に、それを見た私も蛇と一緒に「ひょえぇええ」と変な声が出た。